少年H(2013年、日本)
【監督】降旗康男
【出演】
水谷豊
伊藤蘭
吉岡竜輝
花田優里音
小栗旬
早乙女太一
原田泰造
佐々木蔵之介
國村隼
岸部一徳
感想(2014年8月17日、地上波にて鑑賞)
昭和初期の神戸。洋服仕立て職人の父と、キリスト教を信仰する母の間に生まれた肇は、そのイニシャルから「エッチ」と呼ばれていた。
父は海外からやってきた裕福な人たちの洋服を仕立てるなどして生計を立てていたが、開戦の不安が高まるにつれて外国人たちは帰国していく。
やがて肇の周りでも知り合いの逮捕、妹の疎開、学校での軍事教練など、幸福だった肇の少年時代は戦争によって息苦しさを帯びていく……。
妹尾河童の自伝的小説の映画化作品。
戦前から戦後までの神戸を舞台に、暗い時代に翻弄されながらもたくましく生きた家族の姿が描かれます。
実生活でも夫婦である水谷豊と伊藤蘭が、主人公・Hの両親の役で出演します。
「軍国主義化」というものを丁寧に描いているな、と思いました。
戦争の危機が迫ってくる中で、敵国の宗教であるキリスト教が白い目で見られたり、オペラ音楽を楽しむ若者が逮捕されてしまったり……。
外国人向けに商売をしていたHの父・盛夫も、近所から嫌味を言われたりスパイ容疑をかけられたりする。
これは政府や軍部が規制を厳しくしているだけではなくて、市民ひとりひとりが自主規制してしまっている面もあるんですね。
軍国日本の国民としての「あるべき姿」を皆が知らずに作り出していく……。
軍事教練をするようになった学校では、中学生が「玉砕」なんて言葉を誇らしく使っていたりするわけで……。
しかし、そんな行き過ぎた愛国主義に対して率直に疑問を感じてしまうのが主人公・Hという少年。
彼のリベラルな考え方は父親の影響なんでしょうね。
水谷豊演じる父・盛夫は、穏やかな人柄ながらも先を見通す目を持った、主人公の指針となる父親でした。
一方、伊藤蘭演じた母・敏子は、賢母とは言えなかったですね。
キリスト教の博愛精神に溢れる人なんだけれども、夫が抱いている懸念に対して頑固だったり……。
悪い人ではないんですけど、ちょっと抜けているというか……。
父もそんな母を知ってるからか、息子にだけ話して妻には話さないこともあったりして……。
なので、私には「家族の物語」というよりも、「父と息子の物語」のように見えました。
あくまで母親や妹は脇役でね……。
軍国主義化、開戦、と不安を煽る展開できて、ある夜の空襲がターニングポイントになります。
焼け野原の中から家族が再生していく、これが終盤の見所になってますね。
個人的には、終戦直後のH少年が良かったです。
戦時中はリベラルな考えを持って割りと視聴者目線でいた主人公が、終戦後に民主主義を唱えだした元・鬼教官を見て憤りを感じるんですよね。
鬼畜米英とか、玉砕覚悟とか言ってた大人たち(H少年の見ていた世界)が、米兵に笑顔を振りまき、必死に今日を生きている……。
180度変わってしまった大人たちを、世界を、H少年は許せないわけですね。
これ、ある意味H少年も戦争によって狂わされてしまったのかも、なんて思ったんですよ。
世界がだんだん狂っていくのを目の当たりにして、自分を見失わないでいようとしていたはずの少年が、いざ世界が元通りになると自分だけ狂った世界に取り残されていることに気づく、という……。
これは戦争のひとつの側面を表していると思うんですよ。
兵士が戦うシーンがなくとも、戦争の当事者の視点から戦争がもたらした影響を描いてる点で、この映画は紛れもなく戦争映画だと思いました。