鍵泥棒のメソッド (2012年、日本)
【ジャンル】
コメディ
【監督】
内田けんじ
【出演】
堺雅人(桜井武史)
香川照之(コンドウ/山崎信一郎)
広末涼子(水嶋香苗)
荒川良々(工藤純一)
森口瑤子(井上綾子)
小山田サユリ
木野花
小野武彦
あらすじ
35歳にして定職にも就かず、ボロアパートで孤独な生活を送る役者志望の男・桜井は、首吊り自殺を考えたが失敗し、汗をかいたので銭湯へ行く。すると、見るからに羽振りのよさそうな勝ち組男が浴場で転倒し気絶する現場に遭遇。どさくさに紛れてロッカーの鍵を自分のものと取り換え、彼になりすます桜井。しかし、その男は伝説の殺し屋・コンドウだった……。一方、転んだ時に頭を打ち記憶喪失になってしまったコンドウは、自分が桜井という貧乏男だと知り途方に暮れていた。そんな時、コンドウは婚活中の女性編集者・香苗と出会い……。
感想 (2012年9月26日、フォーラム仙台にて鑑賞)
エンドロールで思わず拍手したくなってしまう映画は今までにもありましたが、この作品は、エンドロールを待たずに中盤あたりで危うくスタンディングオベーションする所でした。
いや、もうツボすぎる。笑いをこらえたくないんだけど、あんまり笑っちゃ周りに迷惑かなとか思いながら、結局身をよじりながら笑ってました。
劇場内の雰囲気も良くて、一体感を感じながら楽しく映画を共有できました。
いやもう何がツボって言い出すとキリがないんですが、冒頭からウケるんです。広末さん!
あの開始数十秒での不思議発言素晴らしかった。あれで一気にこの監督の世界観に引きずり込まれたのかもしれません。
ストーリーは、自殺に失敗してもう何もかもダメになってた男・桜井が、銭湯で記憶喪失になったコンドウになりすましたことで、ヤクザから伝説の殺し屋と勘違いされて……というドタバタ喜劇です。
で、面白いのが、記憶を失ったコンドウが桜井として悩み苦しみながら生きていくというストーリーも並行してるということ。
コンドウの目の当たりにした現実が、悲惨なんだけど、それがいちいち笑えてしまう。
首吊り用のロープに遺書、汚い部屋、未納の税金、所持金は千円ちょっと……。
そのすべてをコンドウは首を傾げながらも受け入れていきます。
コンドウの素晴らしい所は、そんな最低の人生を突然与えられても、本物の桜井と違って投げやりにならなかったことですね。
記憶を失くすと人間は謙虚で素直になるのか、偶然出会った香苗の協力もあって、コンドウは一歩一歩着実に人生を良い方向へと導いて行きます。
こうなってくると、本物の桜井がだんだんダメ人間に思えてきて(笑)
いや実際ダメ人間なんですね。コンドウなら桜井の最低人生でもなんとかやっていくのに、桜井にはそれができなかったわけですから。
……今、意外なことに気づきましたが、この映画には「運命(人生)は自分で切り拓くもの」という強烈なメッセージが込められている、のか!?
さて、コンドウになりすました桜井ですが、最初こそコンドウの隠れ家で優雅に暮らしたものの、やはり殺し屋になりきるには無理があるんですよね。
まず、人を殺せるわけがない。
そのうち、記憶を取り戻したコンドウにすべてバレてしまいます。
うわ~桜井殺されちゃうよ!と思いましたが、何故かコンドウ優しい。
(コンドウが桜井を殺さない理由は後で分かるんですが、それは観た人だけのお楽しみということで)
桜井を演じた堺雅人のトボケっぷり、コンドウを演じた香川照之の記憶喪失と記憶戻ってからの豹変ぶり、で、極めつけの広末涼子のクールな不思議系教養人っぷり。
物語の主な障害となるヤクザのボスを荒川良々が演じていたのも、一見合わないようでいて、でも実はそのズレがなんとも言えなかったり……。
笑いっぱなしで観れるんだけど、ちゃんと見てないと終盤混乱してくるような、脳を刺激する展開にも満足。
とにかくオススメの映画です。
気楽に観れて、期待以上に面白い。