(2014年/イギリス、ロシア)
【監督】
ケヴィン・マクドナルド
【キャスト】
ジュード・ロウ
スクート・マクネイリー
ベン・メンデルソーン
コンスタンチン・ハベンスキー
デヴィッド・スレルフォール
セルゲイ・プスケパリス
マイケル・スマイリー
グリゴリー・ドブリギン
セルゲイ・ヴェクスラー
セルゲイ・コレスニコフ
ボビー・スコフィールド
ブランウェル・ドナヒー
*感想
ナチス・ドイツの潜水艦に眠る金塊を引き揚げるため、12人の男たちが潜水艦に乗り込み危険な深海へと向かう海洋アドベンチャー・サスペンス。
サルベージ会社の潜水艇作業員ロビンソンは、ある日突然、長年勤めた会社をクビになる。
妻と息子にも逃げられ、途方にくれる彼の下に舞い込んだのは、第二次大戦時に莫大な金塊を積んだまま沈んだドイツ軍のUボートが今も黒海の海底に沈んでいるという情報だった。
その引き揚げに成功して人生の巻き返しを考えたロビンソンは、出資者との仲介人ダニエルズのプランに従い、イギリス人とロシア人から合計12人の潜水艦乗りを集める。
一攫千金を狙う男たちは突貫工事で改装したボロ潜水艦に乗り込み、海中深く潜行していく…。
予告編やあらすじから受ける印象、閉鎖空間での極限の人間心理を描いたものなんだろうな~という予想は期待通り拾ってあって、さらにそれ以上に面白い内容だった。
潜水艦に乗って海底深くに沈む金塊を目指す男たち。同じ国の人間同士でもいがみ合いなどが起こりそうなものだが、この映画の潜水艦はお互い言葉の通じないイギリス人とロシア人を半分ずつ乗せて出航するのだから余計にタチが悪い。
当然、言葉の違いからくる諍いや、不信感から派閥が形成されたりということになって、セオリー通りの展開はある意味で安心設計とも言える。
どんどん窮地に陥っていくも、しぶとく粘り続けてなんとか活路を見出そうとする展開も海洋アドベンチャーとしてとても面白い。
主に潜水艦の内部が舞台だが、リアリティがあって自然と物語に引きこまれていく。
一部の展開を除けば「なんでそうなるの」と疑問に思うこともない。これってそれだけ映像に説得力があるということではないだろうか。
海洋もの自体が自然と面白くなる要素を持ってるんじゃないかと、今作を観て思った。
最近観たのだと韓国映画「海にかかる霧」。これは漁船を舞台にしたサイコ・スリラーだが、これもやはりジャンルの好き嫌いに関係なく一定以上の面白さがある映画だった。
船という特殊な空間が、海洋ものを面白くするのかもしれない。
船という狭く息苦しい空間、沖に出れば孤立してしまうこと、船の外側には広大な海が広がっており、落ちれば死が待っているという取り返しのつかなさ…。
この閉鎖空間の作り方はけっこう特殊で、例えば外の方が安全だから脱出しようと頑張る「バイオハザード」や「メイズ・ランナー」などとは真逆の発想だ。
船の中こそが唯一安全な場所なのだが、その場所が危険な場所へと変貌する。潜水艦映画「ブラック・シー」もそれは同じで、いつ何が起こるか分からない緊張の中で物語は進んでいく。
主演のジュード・ロウの演技にも引き込まれる。
今までのオシャレなセクシーさを持つ俳優というイメージは脱ぎ捨て、潜水艦のボスとして海の男達を仕切る渋くて逞しい姿が拝める。
ジュード・ロウは体重を10キロも増やして撮影に臨んだそうで、少し渡辺謙に似ていなくもないような感じだ。(いやラストなんかけっこう似てる)
主役のロビンソン以外のメンバーもみんな個性的で、それぞれのスキルが輝いていた。
個人的にはソナー要員のババが好きだ。物凄い熟練の技で海底の地形を暴くロシアの潜水艦乗り。
エンジン担当のザイツェフは顔は恐いがけっこう不憫な役回りだ。言葉の通じない英国人とばかり組まされている。
その他にもピータース爺さんや良い笑顔のレイノルズ、最年少の素人トビンなど魅力的なキャラクターが登場する。ロビンソンがトビンに感じていたのは罪悪感だけだろうか、それとも親子の情だろうか。
それから、ダニエルズ、フレイザーの困ったちゃんコンビももちろん見逃せない。
*以下、ネタバレになるので閲覧注意。
全体的にとてもすんなり受け入れられてなおかつ面白い映画なのだが、ひとつだけ展開についていけなかった部分がある。
最初の犠牲者が出るシーンだが、ここでのフレイザーの行動が唐突だったように感じた。
フレイザーが行動するまでの溜めというか、根拠が弱いような気も。いくらイカれ野郎という設定があってもあの行動は筋が通らない気がする。
まあ、結果として物語は一気に進展するのだが…。
ラストでロビンソンがモロゾフに掴みかかられるシーンもちょっとしたやりとりだが見所だ。
「奴ら」(=金持ちたち)を見返すために頑なになるロビンソンに「奴らって誰だ」と怒鳴るモロゾフ。
主人公と一緒になって私もハッとした一言だった。
物語の端々に、貧乏人VS金持ちという構図が見え隠れしている。
9000ポンド(約167万円)にも満たない慰労金で解雇されたロビンソン。
新しい職を探すも、30年も潜水艦乗りをしていてそもそも陸での仕事をする気にもなれない。酒場では元同僚のブラッキーやカーストンとシケた話題しかない。うつを患っているカーストンは金塊の話をロビンソンにしてくれたが、その後自殺してしまった。
加えて別れた妻は、金持ちの男とくっついてしまった。
仕事一筋で家庭を顧みなかったロビンソンが妻に言われたのは「彼(新しい旦那)はそばに居てくれる」という皮肉すぎる言葉だった。12歳になる息子が高い授業料の学校に通う姿を遠くから見つめるしかないロビンソン。
ロビンソンの心の底には貧富の格差への憤り、金持ち・富裕層への怒りと憎しみがある。
そんな彼だから、金塊を持ち帰ることは単に莫大な収入を得る以上の意味があった。
それは彼自身の人生の逆転劇であり、同時に、むしろそれ以上に大事なのは金持ちたちへの復讐だ。
自分が長年培ってきた能力を発揮して金持ちの奴らを見返す。ロビンソンにとってそれは重大な目的となる。この敵愾心は部下を鼓舞する時にも役に立っている。
もしかしたらサルベージに成功すれば妻と息子が戻ってくると淡い期待を抱いていたかもしれない。男だもの、それくらいの夢は見てもおかしくない。
ロビンソンの復讐への執着は金塊を手に入れることでさらに強くなる。
命を失えば意味が無いと浮上したがる船員を黙らせ、命がけの大勝負に打って出るのも、何としても金塊を持ち帰りたいからだ。というか、浮上して金塊をロシア海軍に奪われれば「負け」だからだ。
金持ちの側である仲介人ダニエルズがどんどん平常心を失い醜態を晒すのも、ロビンソンの意志を逆に強固なものとする。こんな腰抜けの奴らに負けてたまるか、と。
だが、仲間を大勢失い、艦もまさに沈没しようとするその時になってさえ、ロビンソンは復讐のことしか頭にない。
そんな彼に放たれた言葉が「奴らって誰だ」である。
モロゾフは話の通じないロビンソンに深く考えずに言ったのだろうが、この言葉が復讐に執着するロビンソンへの強烈な皮肉となった。海の底では金持ちも貧乏人もないのだ。そしてここに「奴ら」はいない。
ロビンソンはいつの間にか「奴ら」という漠然としたイメージを憎んでいたのだと思う。
それはどうしようもない社会の歪んだシステムそのものに対する怒りであり、ロビンソンひとりの手には余る問題だ。少なくとも潜水艦の中で論ずる話ではない。
しかしロビンソンはモロゾフに言われてようやくそのことに気付く。そしてその時にはすべてが遅かったのである。
私自身も、貧富の格差については他人事じゃないので、途中まではロビンソンに共感していた。
社会の底辺、負け組と揶揄される男たちが勝ち組たちの鼻をあかす。彼らはある意味でヒーローだ。
しかし、私もロビンソンと同じように「勝ち組」というイメージを妬んでいただけだと、モロゾフの言葉で思い知らされた。
敵愾心を自ら煽って仮想敵を憎む、そんな無意味なトラップに人はハマりがちなのかもしれない。
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