(2014年/日本)
【監督】
塚本晋也
【キャスト】
塚本晋也
リリー・フランキー
中村達也
森優作
*感想
大岡昇平が自身の戦争体験を基に書いた小説「野火」の二度目の映画化。
監督は「鉄男」「悪夢探偵」などの塚本晋也。今作では主演も務め、極限状態に追い込まれた主人公を演じている。
太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島。
日本軍の敗北が濃厚となる中、結核を患う田村一等兵は部隊を追い出され、野戦病院に向かうが、そこでも食糧不足を理由に入院を拒否される。
居場所のなくなった田村は空腹と孤独に喘ぎながら原野をさまよう…。
戦争映画といっても、お涙頂戴のエンタメ優等生大作映画ではなく、絶望と諦観と狂気が蠢く映画で、こういう作風ならば過去に「鉄男 THE BULLET MAN」を観に行って痛い目にあった塚本晋也作品でも食指が動く。
むしろ戦争によって作り出された極限状態に陥った人間たちしか描かれない点で、これは「戦争映画」と呼べるのかと疑問に感じる。これはもうホラー映画なんじゃないだろうか。
物語の大部分は、「飢え」と「狂気」であり、孤立無援で島に取り残された人間たちの醜い欲や浅ましさが描かれる。
常に不穏な空気をまといながら主人公は密林を放浪する。時には自分自身が不穏な空気を噴き出しながら。
個人的に注目したのは中盤の虐殺シーンで、かなりむごい映像がしばらく続く。
脳漿が飛び散り、鮮血が噴き上がり、手足はもがれ、はらわたは飛び出し、顔面を機銃掃射で削り取られて呻く…。
これ以上ないほどの地獄絵図だったが、それに惹かれる自分もどこかにいる。
気持ち悪い、怖い、痛そう…と引きつつも、どこかその描写をかっこいいと感じている自分もまたいるのだ。奇妙なことに。
さらに奇妙なことに、その虐殺シーンの後の展開を見ると、むしろあそこで死んでいた方がマシだったんじゃないかと思えてくる。
森に還りつつある同胞の死体、湧き出す蛆虫。目的を喪失した主人公の胸には何も無い。ただ本能に従って空腹を満たそうとするだけだ。
そして飢餓はあっという間に人間の理性を侵食する。
塚本監督は、戦争体験者に積極的にインタビューを行い、そこで感じたことをこの映画に反映させたようだ。
構想20年、自主制作で作られたこの映画を「若い人をはじめ多くの方に見てもらい、いろいろなことを感じてもらいたい」とコメントしている。
やはりこの映画は戦争がもたらす極限状態を描いており、人間の姿を生死を問わず美化しない点で、テレビ局主導の戦争映画とは別の次元にあると思う。
だが、私たちが直面している危機とも別次元を描いているんじゃないだろうか、と私は思う。
つまり、この映画は70年前の戦争のむごさを嘘をつかずに描いているかもしれないが、その70年という時間の隔たりがあるために、やはりどこまでいっても「過去の出来事」であるし「田村一等兵の体験した事」なのだ。
現代の戦争はこんなむごたらしいことになるだろうか、いや、たとえ仮にそんなことになる可能性があるとしても、政府はそれを正直に言わないだろう。
「後方支援だけするのだから安全」「無人機を飛ばして空爆するから安全」「世界の平和に貢献せねばならない」
そんな言葉によって戦争の是非を問われた時、私たちはどう判断するだろうか。
戦争が「安全」であると担保されるならば、「安全な戦争」を支持してしまうんじゃないだろうか。
そんな風に私は思ってしまった。
この映画はあくまで「映画」であって現代の現実の戦争はもっとスマートだ。
そのスマートな戦争こそ、いま私たちが本当に考えなければならないことなのだ。
なんにせよこの映画はそこらの戦争感動作映画とは一線を画するので、それだけでも見る価値は充分にあると思う。
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