
マッドマックス 怒りのデス・ロード
(2015年/オーストラリア)
【監督】
ジョージ・ミラー
【キャスト】
トム・ハーディ
シャーリーズ・セロン
ニコラス・ホルト
ヒュー・キース・バーン
ロージー・ハンティントン=ホワイトリー
ゾーイ・クラヴィッツ
ライリー・キーオ
アビー・リー・カーショウ
コートニー・イートン
ネイサン・ジョーンズ
*感想
27年ぶりに作られた「マッドマックス」の4作目。
監督は前3作を手がけ有名監督としての地位を築いたジョージ・ミラー。
主演はさすがにメル・ギブソンから交代して、「ダークナイト ライジング」でも顔に拘束具つけてた気がするトム・ハーディが主人公マックスを演じる。
*以下、ネタバレ・野暮なツッコミですので未見の人は閲覧注意。
これを前作の続編とみなすか、前3作を一旦リセットして再起動させたリブート作品とみなすかは、意見の分かれる所かもしれない。
個人的にはなまじ過去作を知っているだけに、マックスが見る白昼夢の内容が少し気になった。
マックスが悩まされているのが、幼い少女がドクロや死のイメージと共に現れる悪夢である。
それは起きていても幻として目の前に現れ何事かささやきかけてくるのだ。
それがマックスの深い悔恨からくる幻影であることは分かるが、しかしこの映画、邦画などがよく陥りがちな「回想シーン」なんてものは用意しておらず、実際過去にマックスの身に何があったのかは、台詞ですらも語られないのである。
まあ、普通に考えれば、マックスがかつて救えなかった幼い命について今も深く悩んでおり、それが幻となって現れる…ということになるのだろうが、マックスが乗り越えたくても乗り越えられない心の傷とは果たしてなんだろうか?
それは、おそらく家族を喪ったことだろう。
孤独なマックスの前に幼い子供が幻として現れれば、それはおそらくマックスのかつて喪った愛しい我が子なのだ。
しかし、ここで1作目を見た者には疑問が生まれる。
マックスにその年頃のお子さんはいなかったはずだ…、と。
1作目で亡くなったのは妻と赤ん坊。幻のイメージと微妙だが異なる。
では、あの子はなんなのか?…という話になってくる。
語られなかった過去に出会った赤の他人なのだろうか?それとも…。
これが、この4作目が続編なのかリブートなのか判断できない理由。
マックスの設定が微妙に異なっている(ように見える)のである。

だがしかし、この作品は続編だろうがリブートだろうが関係ない、圧倒的な存在感を独自に放っている。
そして思えば、3作目「サンダードーム」を見た時に、マッドマックスは永遠に作り続けられるな…と思ったのである。
多少、主人公の設定に疑問が残っても、とにかく今作は今作として楽しめる。今作の中に限って言えば、何も矛盾はしていないのだ。
水の力を持って人々を支配するイモータン・ジョー。
ジョーを狂信し、自らの死も厭わない短命の若者たち、ウォーボーイズ。
繁殖のために囚われていたジョーの5人の妻たちと、彼女たちを逃がそうとする女戦士フュリオサ。
ウォーボーイズの輸血袋として駆り出され、フュリオサたちと行動を共にすることになる寡黙な主人公マックス。
それぞれの登場人物が、きちんと「存在している」のがこの作品の凄い所だ。
それはつまり、台詞や説明描写によって「存在させられている」とは違って、彼らは何も語らずとも、自らの行動によって自己の存在を証明しているのである。
例えば、マックスはとても無口で、台詞は多い方とは言えない。
しかも、フュリオサがピンチの時には、言葉ではなく「ンー…!」とか「フゥーッ!」とかが先に出てくる。どこかコミュ障な印象を与える主人公だ。
しかし、それは孤独な旅を続けてきたマックスならば当然のことだと言える。
面白いのは、それを「あなた無口ね」とか「人と話したのは久しぶりだ」などの台詞で説明なんてしなかったことである。
台詞で語らせなくても、ほんの些細なことで人物の置かれている状況や考え方、感情や目的が分かる。
これはおそらく老練なミラー監督の演出力の賜物であり、こういう気配りの効いた演出だったからこそ、荒唐無稽なアクション映画でありながら陳腐な感じは一切しないのだろう。
映画を見慣れている人ほど楽しめる映画なのではないだろうか?

あとはもう語り出すとキリがない。
さまざまな形の改造車や、魅力的な脇役たち、物語の意味性などについては既に語り尽くされているだろうし。
とにかく、随所にMADな仕掛けが施されており、しかもそれをいちいち取り上げない所がこの上なくMADだった。
あと、マックスがウォータンクの向こう側に見た、妻たちの水浴びシーンはこの世のオアシスかと思いました。
あそこの破壊力はほんとズバ抜けていたと思う…!
しかし、本当に素晴らしい映画だったので気になる部分が残ったのも残念ではある。
前述の白昼夢の件。やはりどうしてもその内容が引っかかるし、それによってマックスが成長したかのような描写もあったのだが、それが何故なのかわからない。
悪夢にうなされていたはずが、何故か悪夢が助けてくれる。
そこだけが理解できないままだったのが残念だ。
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