乱歩奇譚 Game of Laplace
#1「人間椅子(前編)」
#2「人間椅子(後編)」

*感想

うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと。

今年2015年は、作家・江戸川乱歩の没後50年。
そこで、乱歩の耽美で奇怪な世界観を、現代風のアレンジも含めつつオリジナルアニメ化したのがこの作品。
私は江戸川乱歩は一度も読んだことないんだけど、アニメの世界観が物凄かったので今期はこの作品を不定期でレビューしていこうと思います。


監督・岸誠二は人気アニメ「Angel Beats!」「結城友奈は勇者である」「暗殺教室」、劇場版も作られた「蒼き鋼のアルペジオ」などを手がけた人で、けっこうな売れっ子アニメ監督なんじゃないだろうか?(←ちなみにこの監督の作品は初視聴)
シリーズ構成・脚本の上江洲誠(うえず まこと)は、岸監督とタッグを組むことが多い人のようで、やはり「結城友奈〜」「蒼き鋼の〜」「暗殺教室」、それから現在放送中の「アルスラーン戦記」のシリーズ構成として携わっている。

アニメーション制作のLerche(ラルケ、ドイツ語でヒバリの意)は、スタジオ雲雀で2011年頃に結成されたアニメ制作チーム。
過去には「ダンガンロンパ」「機巧少女は傷つかない」、そしてやはり「暗殺教室」。
ちなみに今期はこの「乱歩奇譚」の他に「がっこうぐらし!」の制作にもクレジットされているようだ。
(えーと、ここまでアルスラーン戦記以外ぜんぶ未見…)

要するに、原案にクレジットされた江戸川乱歩も含めて私が初めて触れる製作陣だけど、実績あるのでけっこうしっかりした作品になるんじゃないかということ。
安心して見てもいいんじゃないだろうか。

ただ、内容についてはまったく安心できない(笑)
初回から死体を切断してオブジェにしてしまう猟奇殺人が描かれる。
死体描写も遠慮がなく、現実で何か残酷な事件が起こりでもすれば、即放送自粛に追い込まれるようなギリギリのゴア描写である。
ちゃんと最後まで放送できるのか(この夏の間世の中平和に過ごせるのか)別の意味で安心できなかったりする(笑)

同じノイタミナ枠ということで、「PSYCHO-PASS」の新編集版が現実で起こった殺人事件の余波で放送自粛された件を思い出した。
あれはまだ昨年の話か。放送中止になったのは、お嬢様学園の裏側で起こった凄惨な猟奇殺人のエピソードで、実はこの「乱歩奇譚」はそのPSYCHO-PASSのエピソードを想起させる内容でもある。
少し古風な学校、制服もなんとなく似ている。王陵先輩と後輩女子の百合描写は、乱歩奇譚ではBL描写であるし、声優・櫻井孝宏が両方の作品に出ている。
乱歩奇譚の今回のエピソードは、「人間椅子」が原案だが、PSYCHO-PASSも元ネタになっていたりしないだろうか?(←さすがにこじつけ)


話を戻そう。内容について安心できないという話。
それは単に事件の凄惨さのみではない。
事件を取り巻く人間たちの関係も中々に刺激的で安心できない。

主人公コバヤシ少年は、可愛い顔をしていながら無惨な死体を見てもまったく動じず、自分が警察に容疑者として連行されても笑顔のまま。
挙げ句の果てに、自分の容疑を晴らすことと真犯人を挙げることを「失敗のできないゲーム」と捉え、「楽しいです…♪」なんて言い放つ。

ちなみに作中では、モブキャラなどがシルエットで表現されているのが特徴だが、これは他者に関心を持たないコバヤシ少年の視点を表現しているらしい。
彼にとってどうでもいいクラスの女子たちは会話をしていてもシルエットのまま、つまりよく知らない誰かのままであり、彼を取り調べることになったカガミ警視がコバヤシ少年に名乗るとシルエットから通常の表現に変わった。もともと親しい仲だったハシバ君は、教室に飛び込んできた時に既に通常の表現だった。
コバヤシ少年が誰を認知し、何に興味を持っているかを示すと共に、乱歩奇譚のちょっと怖い世界観を表現してもいるわけで、非常に上手いやり方だと思う。

ちょっとサイコパスの気があるコバヤシ少年と対照的なのが友人のハシバ君。
友達というよりはホモダチで、コバヤシ少年の行動にいちいち頬を赤らめるハシバ君の描写が気になる視聴者もいたらしい。少しあざとすぎやしないかということで…。
個人的にはこういうBL要素は最近では珍しくないし、まったく違和感なく受け入れてしまった。ああ、ハシバ君はコバヤシ少年のことが好きなんだ…と。

むしろ違和感あるのはコバヤシ少年の描写で、女性的な顔と体つき、ピンクのシャツに赤いスカーフは確信犯だろう。(ちなみにハシバ君は白シャツにダークブルーのネクタイだった)
このアニメにヒロイン的な存在の女性キャラは登場しないようで、それはもう「どうぞコバヤシ少年をヒロインと思って見てください」と言っているようなものじゃないだろうか?

そんなわけで、ハシバ君がコバヤシ少年を好きとかBLとかそれ以前に、男性視聴者がコバヤシ少年をヒロインとして受け入れねばならないのだ。
制作者が、男性キャラに女性的な特徴ばかりも設定したのなら、そのキャラクターは肉体に「女性」が入ってると言えるだろう。
ある意味でコバヤシ少年は「女性」なのである。



全然話が進まないが要するに初回はハードな事件描写と、コバヤシ少年の危うさにハラハラしたのかもしれない。
さらに時折挿入されるギャグのシュールさも、世界観崩壊していてヤバい。
OP・EDもとてもかっこいい。

「人間椅子」をめぐる被害者・加害者の常人には理解し難い思い。
それを理解し推理してしまうコバヤシ少年。
今回の「人間椅子」、素直に「みんなキチガイだ…((((;゚Д゚)))))))」と驚いたし、中々のキチガイっぷりに今後の展開がちょっと気になるエピソードでした。