攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE

【総監督】
黄瀬和哉
【キャスト】
坂本真綾
塾一久
松田健一郎
新垣樽助
咲野俊介
檀臣幸
中國卓郎
上田燿司
中井和哉
沢城みゆき
浅野まゆみ
慶長佑香
藤貴子
久川綾

*感想

士郎正宗の原作漫画、押井守の劇場版アニメ、神山健治のTVシリーズに続く、黄瀬和哉の「第4の攻殻」こと「攻殻機動隊 ARISE」。
2013年6月に4部作の1作目「border:1」から順次スクリーンで公開され、攻殻機動隊が誕生する前の出来事が描かれた。

そして今年2015年6月にはARISEと他の作品をつなぐ、攻殻機動隊の誕生を描いた「攻殻機動隊 新劇場版」が公開。
その公開に合わせて春からテレビ放送されたのが「攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE」。

攻殻ARISE AAでは、border:4を最初に放送し、その後border:1から3の順にそれぞれ2話構成で放送している。
さらに完全新作エピソードとなる「PYROPHORIC CULT」(これも同じく2話構成)を最後に付け加え、ARISEから新劇場版への橋渡しとしている。
これはシリーズ構成の冲方丁の初期案に基づく構成だそうで、その名のとおり「ALTERNATIVE(代替の)ARCHITECTURE(構成)」というわけだ。




■相変わらずの難解さ
シリーズ通しての特徴であるスピーディーな展開は今作でもしっかり受け継がれており、専門用語が飛び交っていることもあって、一見しただけでは容易に理解できない難しさである。
さらに今作ARISE AAでは、もともと60分ほどの劇場版を2話に落としこんでいるため、普通のテレビアニメでは考えられないようなあっさりした引きで終わったりする。
私は最初のエピソード「Ghost Stands Alone」前後編を見た時に、これは毎週1話ずつ見てたら意味が分からないと思って、録り溜めて2話ずつ見ることにした。

しかし、そんな小細工は全然意味がないくらいに相変わらずの難解さである。
加えて、前述の冲方案の構成によって時系列も弄くられている。
結局、私は放送順にborder:4→1→2→3と見た後に再び4を見るはめになった。その後にPYROPHORIC CULTである。
それでようやく全体像が掴めたような感じだ。

ただ、今回この「第4の攻殻」を見て、今更ながら気づいたことがある。
それは、攻殻機動隊はどの作品もとても「エモーショナル」であるということだ。
ハードなSF設定の数々、政治や経済の利権・思惑が絡み合うストーリー、スピーディーな展開、それらによって日本のアニメの中でもとりわけ難解な攻殻だが、そのストーリーで描き出そうとしているのは、人間の感情、電脳や全身義体によって大きなアイデンティティを失いつつも、未だ「個」として存在し悩み続ける人間たちの姿である。

サイバーパンクであるにも関わらず、いや逆にサイバーパンクであるからこそ、人間のエモーショナルな部分が際立つのかもしれない。
1~8話に振られたサブタイトルはどれも「Ghost」という言葉で始まる。
「ゴースト」とは、ウィザード級のスキルを持つ電脳を備え、生まれつき全身義体の主人公・草薙素子を草薙素子たらしめている「何か」である。
電脳を乗っ取られても、義体を乗り換えても、なお自分を自分と認識できる「ゴースト」の存在。
それは生身の私たちにも「魂」として認識できるものであり、その意味で、攻殻の物語は人間の感情を描いた物語と言えるのだ。


■作品を彩る女性たち
攻殻機動隊といえば、やはり主人公・草薙素子のカリスマが最大の魅力のひとつだろう。
屈強な男たちを従え、誰も敵わないハッカーに自ら電脳戦で挑む。いざ実戦となれば、部下たちから「メスゴリラ」と揶揄されるほどの腕力で次々と敵を制圧していく。
ARISEでは、独立部隊の結成を望む野心溢れる素子が、部隊の「パーツ」となる一癖あるスペシャリストの男たちを高圧的な態度で次々と引き入れていくのが最高に見ものだ。

一方でborder:3(第7、8話)では、恋人(もちろん人間の男性w)との蜜月を披露するなど、一人の女性としての素子も描かれた。(この展開には驚きだった。しかも、バトーのようなマッチョなゴリラ男ではなくて知性あふれる優男である)
義体であるがゆえに瞬きをしない無表情な「少佐」が、ARISEでは実に多くの表情を見せ、謎に包まれていた素性も多く明かしている。

加えて、ARISE AAでは素子以外の女性キャラクターも多数存在感を示していた。
素子の旧知で何かを企んでいる501機関のクルツ中佐。次世代兵器開発の裏で暗躍する陸軍情報部のホヅミ大佐。米軍情報部のエージェントで、同型の推奨義体を使用するジュリルとヴィヴィー。クザン共和国の国営水企業代表として同胞を裏切るサイード博士。

これまでの攻殻で女性キャラクターというとあまり思い浮かばない。(イノセンスのハラウェイ検死官とSACの茅葺総理、あとはモブのオペレーターくらいか…)
問題は彼女たちが、裏方ではなく、表舞台に立って、自らの野心のために動いているという点である。
これほどまでに女性が活躍するのは攻殻で初めてで(ホヅミは全身義体だし、ジュリル/ヴィヴィーも元の性別は不明だが…w)、政治・経済・軍事の面において女性たちが男性と肩を並べていることが分かる。

ただ、それはあくまでも男性的な振る舞いをする男勝りの女性たちであり、その意味では素子とあまり変わりないのかもしれない。
今までの攻殻では男性キャラクターを配置していた所に、女性を配置してみた、ということなのかもしれない。


その他、キャストの一新や、コーネリアスの劇伴など、語るべきところが多い作品。
変わらないことといえばProduction I.Gの看板アニメーションということくらいか。
これからも「攻殻」という作品は作り手を変えながら進化していくのだろう。
そして、どんなに攻殻を構成する要素が変わっても、唯一変わらないもの…、それが「ゴースト」と呼べる何かなのかもしれない。(なんか上手いこと言った気分w)