(2014-2015年/日本)
【総監督】
押井守
【監督】
辻本貴則
湯浅弘章
田口清隆
【キャスト】
真野恵里菜
筧利夫
福士誠治
太田莉菜
堀本能礼
田尻茂一
しおつかこうへい
藤木義勝
千葉繁
渡辺哲
寺泉憲
【ゲスト出演】
岩松了
竹中直人
波岡一喜
松本圭未
ベンガル
奥田恵梨華
嶋田久作
鈴木敏夫
鴻上尚史
高島礼子
大東駿介
駿河太郎
*感想
「機動警察パトレイバー」の実写版プロジェクト、通称「TNGパトレイバー」。
今回は、2014年から劇場公開されてきた全7章13話からなる短編シリーズの感想をまとめてみようと思う。
ちなみに私は劇場では一度も観てなくて、最終章にあたる劇場用長編「首都決戦」を観る前にレンタルで一気見したクチです。
■短編シリーズは「凄い」コメディドラマ
全7章に分けられた13のエピソード。
そのすべてについて語ると時間が足りないので省略するが、どちらかというと主人公である泉野明が所属する「特車二課」第二小隊の日常を描いたものになっており、実車であることと1話48分という長さもあってテレビドラマのような印象だった。
しかし、警察を舞台にしたドラマとして見ると前例のないものになっている。
主人公たちは四六時中作業着風の制服だし、舞台は二課棟と呼ばれる大倉庫内に設置されたプレハブの事務スペース。
そして彼らの傍らには全高7メートルを超える人型作業機械・98式AVイングラムが鎮座している。
まともに動かない旧時代の遺物を持て余しつつ、出動要請に備え24時間のフル待機が続くという、なんとも青春を無駄に過ごしているようなドラマだ。
そしてコメディドラマとして見てもかなり意表を突かれる内容で、予算が良いのか知らないが色んな意味でぶっ飛んでいる。
二課棟が爆破されたり、コンビニでテロリストと撃ちあったり、下水道でジュラシックパニック(?)に陥ったりと、普通のコメディドラマでは起こらないようなことが毎回起こる。
元はアニメ作品であり、TNGではアニメの文法を実写でやっているので、たまにあまりにもバカすぎるネタがあったりするのもこの作品独自の面白さだろう。
あまりにテンポがゆるゆるな回もあったりしたが概ね楽しめたし、何より最終章にあたる「首都決戦」を観る上では欠かせない内容になっている。
「首都決戦」はお世辞にもそれ単体で楽しめる作品とは言えず、登場人物たちの個性や関係性、物語の背景を知るためには、やはり短編シリーズを見てから「首都決戦」を観ることを今更ながらオススメしたい。
■カーシャの魅力
ヒロインは真野恵里菜演じる「泉野明」なのだが、完全にヒロインを喰ってしまっていたのが太田莉菜演じる「カーシャ」だ。
ロシア連邦保安庁より研修の名目で赴任中で、第二小隊二班の指揮担当。
ドゥカティに乗り、ヘビースモーカー(禁煙の二課棟でも関係なしに吸う)、ロシア語で罵声を浴びせながら、その細い身体で愛用のAKを振り回すというなんともかっこいいキャラだ。
このカーシャの絵的な美しさとキャラクターとしての完成された魅力が、個人的には毎回楽しみであり、真野恵里菜には申し訳ないのだがカーシャが一番好きだ。
押井守監督もインタビュー記事でカーシャを演じた太田莉菜の魅力について熱く語っており、一方で真野恵里菜についてはほんの数行…。
なんだか真野さんには重ねて申し訳ないと思う…。


カーシャの活躍が特に堪能できるエピソードは、EP4「野良犬たちの午後」(第3章に収録)と、EP8「遠距離狙撃2000」(第5章収録)。
前者はテロリスト相手に立ち回るカーシャの華麗なAK捌きが楽しめ、後者はシリアスな雰囲気の中でカーシャの過去にも迫っていく話だ。
他にも、EP7「タイムドカン」(第4章収録)やEP9「クロコダイル・ダンジョン」(第5章収録)でも良い表情も見せてくれる。
ここに挙げたエピソードだけでも特車二課の日常はなんとなく掴めると思うので、「首都決戦」を見る前にはこれだけでもなんとか予習していただきたい。
カーシャにお株を奪われかけているヒロイン明だが、彼女中心のエピソードももちろんある。…というか無いわけがない。
第2章収録のEP3「鉄拳アキラ」は明のゲーマーとしての一面を描き、第6章収録のEP10「暴走!赤いレイバー」とEP11「THE LONG GOODBYE」はどちらも明が主役級に扱われている。(当たり前だけど)
特にEP11は明の女性としての一面を伺わせるもので、シリーズ終盤はきちんと主役にクローズアップしていたと言えるだろう。
一方、女性隊員2名と対照的に、男性隊員4名は個人的なエピソードは用意されなかった。
日常のやりとりの中で個性はそれぞれアピールできていたが、過去に迫るとか、私生活に迫るとか、そういう個人個人のエピソードはない。
EP0「栄光の特車二課」(第1章収録)で長々と物思いに耽った整備班長シバシゲオと、「首都決戦」のプロローグとも言えるEP12「大いなる遺産」(第7章収録)でようやく動き出した後藤田隊長はまだ救われるが、もしもTNGシリーズが今後も続くのであれば、塩原・太田原・御酒屋・山崎らのエピソードも見てみたいと思った。
■肝心のイングラムは?
やっぱりロボットが動いてなんぼのパトレイバーである。
誰しもかっこよく戦うイングラムを想像したことだろう。
しかし、ロボットアクションを期待すると肩透かしを喰らう。
もちろん、実際に造ってしまったという実物大のイングラムをデッキアップしたりするシーンはアガるし、要所要所ではCG特有の違和を感じさせない動きで充分に活躍する。
しかしそれよりも、特車二課を巡る設定がうまく効いていたな、という思いがする。
時代遅れで動かせば必ずどこかが壊れる人型ロボット、予算削減で調達困難な整備パーツ、お荷物と揶揄され解体の危機にある特車二課、やる気のない隊員たち…。
イングラムの顔はカクカクしていていかついのだが、動き始めると何故か滑稽だ。
そういったダメダメな要素を隠さずに、むしろ積極的に出しているからこそ、ロボットの活躍が少し物足りなくてもドラマ部分で充分満足できたんじゃないかと思う。
ここぞという時に動くイングラム…。この路線は「首都決戦」でも受け継がれており、だからこそドラマ部分を楽しむためにこの短編シリーズを予習する必要があったのだと思う。
概ね楽しめたし、登場人物への愛着も湧いた。
正直「首都決戦」で終わりではもったいない気もするのだが…。
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