四月は君の嘘

【監督】
イシグロキョウヘイ
【キャスト】
花江夏樹
種田梨沙
佐倉綾音
逢坂良太
早見沙織
梶裕貴
茅野愛衣

感想

昨年10月から今年3月まで2クールに渡って放送された青春音楽アニメ。
制作はA-1 Pictures。イシグロキョウヘイはこの作品が初監督作となった。

原作は新川直司の同名漫画で、そちらも今年3月に連載が終了。
連載中の人気漫画とアニメがほぼ同時期に完結する、というのはそれだけで話題になりそうだけど、最近の漫画・ラノベ関係の瞬発力のあるメディアミックス展開を見てるとこういうのはこれからも増えていくのかも。

ただ、中には原作ライトノベルが人気だからとりあえず1クールだけアニメ化して、続きは原作で…、続編アニメ化は未定…みたいな見切り発車としか形容できないメディアミックスもあるので、原作が人気だからといって拙速にアニメ化するのはどうかと思う。
あっという間に消費されてすぐに忘れ去られるようなのはごめんだ。話がそれた。



■青春、音楽、難病もの

かつて天才少年ピアニストとして知られていながら、母の死をきっかけにピアノが弾けなくなってしまった有馬公生。
モノトーンの日常を送っていた14歳の春、公生は同い年のヴァイオリニストの少女・宮園かをりと出会う。
かをりの奔放な演奏に触れた公生は、自分の世界がカラフルに色づき始めたことに気づく…。

9daa7033.jpg


青春と、音楽と、難病…。エンタメの鉄板とも言える要素を3つも盛り込んだ王道を行く作品である。
逆にこれだけの要素が揃っていて、漫画・アニメと話題になっているにも関わらず、まだ実写化の話が出ないことが不思議なくらいだ。(難病ものの邦画とか、一時期は毎年のように作られていた気がするけど)

主人公・公生はナイーブな文化系ながらも、まあまあカワイイ幼なじみ椿と、サッカー部のチャラい友人・渡に囲まれて日々を送っている。(この時点でリア充の臭いがプンプンしてるとか言わないw)
そんな彼が出会ったのは金髪ロングの美少女ヴァイオリニスト・宮園かをり。肩書の上品さとは真逆の、奔放で暴力的で表情が目まぐるしく変わる少女に公生は一目で恋に落ちる。

しかし、それは叶わぬ恋だった。
渡のことが気になるというかをりを椿が渡に引き合わせ、公生はその現場にたまたま居合わせただけにすぎない。
14歳の春の劇的な出会い。しかし、「友人A」として認識される所から公生とかをりの関係は始まる。

だが、物語はすぐに動き出す。
演奏者という同じ境遇が公生とかをりを無関係では居させない。
ピアノを封印したピアニストと、彼にもう一度ピアノを弾かせてみたいヴァイオリニスト。
かをりは持ち前のバイタリティと強引さで、公生を再びコンクールの舞台へと引きずり出す。

そこで公生が感じたもの…。それを得るために公生は再びピアノに向かいあう。その傍らにはかをりの姿。
同じ時間を共有し始めた2人を見て、公生に淡い想いを抱いていた椿は困惑する。
そして公生は、渡に遠慮してかをりへの想いを心にしまいこんでいた。

19bdc653.jpg


…と、こんな恋愛模様を見せられて青春の切なさ儚さ感じないはずがないだろうと(笑)
放送開始当初は良い意味でドロドロの四角関係が見られるもんだと思っていた。
これで面白くならないはずはないだろうという確信があった。

実際その通りだったけど、思っていたよりもおとなしくまとまっていた(ドロドロはなかった!)のは、主人公たちが14歳の中学生だったからだろうか。
見てる最中はまったく中学生には見えないマセた演出だったけど、よくよく考えればキス以上のカンケイには発展していないわけだし。
しかしそれでも、人生でただ一度の大恋愛に立ち会った気になるのは、「今」しかない14歳の少年少女の感情が画面に溢れていたからだろうか。

そして、個人的に思うのは、肉体関係のない恋愛であっても、公生やかをりが自分たちの演奏に求めていたのは、音楽を通して得られる絶頂だということ。
これは、セックスで得られる快感よりも遥か高みの感情だろうと思う。
かをりはそれをストイックに追い求め続ける。公生はかをりの伴奏者としてそれを体感したからこそ、その地平に再び行こうとしてピアノに向かう。

006ed14e.jpg


公生の演奏に影響される人物たちも多く登場し、物語を彩る。
ずっと公生をライバル視してきた井川と相座、公生にピアノを習うことになる相座の妹。
彼らとの競演・共演も見所だった。

特に公生・井川・相座の3人が終盤で見せた関係性は面白い。
ライバルとして認め合いながらも、舞台裏では支え合う存在だった彼ら。
競技者は敵同士であっても支え合い、高め合っていく。

世の中に青春を描いたアニメは数多くあり、アニメファンなら誰もが自分にとっての青春アニメを持っていると思うが、この作品は新たな青春アニメの金字塔となるポテンシャルを持った作品だった。



■停滞する物語

前述の鉄板要素を上手く料理したし、やはり最後は涙なしには見られないような結末だった。
毎回の演出も素晴らしかったし、作画も安定…。
ポテンシャルは本当に高いTVアニメだったと思う。

74db5d4c.jpg

↑ポテンシャル高いヒロイン(病弱)

しかし、この作品が傑作や名作かと問われれば、私は否定してしまう。
何故なら単純に乗り切れなかったから。
面白い、素晴らしいアニメだと頭で理解していても、それが感動に結びつかない状態が長く続いた作品だった。

つまりは「飽きた」ということだろう。
クラシックを演奏しながら語られる主人公たちのモノローグ(つまり弾き語り)がとても多い。
Aパートでモノローグ、Bパートでモノローグ。モノローグ、モノローグ、モノローグ…。

これでは食傷になってしまうし、実際私はなったんだと思う。
モノローグに頼った演出。それは原作漫画で言えば白い四角の箱の中に台詞が書かれてるような感じだろう。
そういう情緒に訴えるような演出はこの作品に合っていて、魅力の一つでもあるだろう。
だが、それに頼り過ぎだ。

さらに、主人公がモノローグで語る言葉も毎回あまり変化がないのである。
「今週も切ないモノローグをやってたな」そんな感じである。
物語はたしかに進行しているのだが、演出が同じせいで同じ回を繰り返しているように見えてしまう。終盤なんて話がどこまで進んでるのか分からなかった。

おそらくこのアニメは原作を丁寧に忠実に再現したんだと思う。
だが、月刊誌の構成は月イチで見るから良いのであり、その構成をTVアニメで毎週やられたらどうか?(単行本一気読みでも感動するけど?というツッコミはご遠慮ください)
原作未読なので憶測に過ぎないのだけど、とにかくTVアニメなりの別の構成の仕方があったように思う。

290c0889.jpg


そんなわけで後半戦に入ってかをりが入院してから(髪色が薄くなってから)は特に物語の停滞を感じるようになった。
前半の山場で公生が母親との問題にケリを付けたせいもあるかもしれない。
問題がひとつ片付き、主要キャラも登場し終わった後に待っているのは、ヒロインとの決着のみだろう。

ただ、そこからもけっこう長い。(まあ半分残ってるから当然)
相座妹の登場、椿の揺れる心、かをりに会うのが怖い公生、本筋に関係あるかないか分からないのも含めて、相変わらず「弾き語り」の演出は毎回のように続く。

そこが面白いというのも分かる。
「青春」を演出する上でベターだと思うし、実際優れた表現だと思う。
ただ、このアニメの場合は、その演出がデフォルトになってしまった。

私はこういった演出はシリーズ通して各キャラクター1、2回、主人公は最初と中盤と最後だけでも良かったんじゃないかと思う。
モノローグはたまにやった方がグッとくるはず。
少なくともAパートでやった後にBパートでもやるようなものではないと思う。



これだけ書いておいて、実際はそんなにモノローグなかった…とかだったら笑ってしまうが。
それはそれで、少ないモノローグで強い印象を与えたということが言えるかな。

いや、たしかにモノローグは多かった。
私の中では「モノローグのアニメ」として記憶に残りそうである。

65db4728.jpg


最後になったが、私イチオシのキャラクターは椿の友人・柏木さんだったことを書き加えておく。
あの中学生とは思えぬ落ち着き!