チェイス!(2013年、インド)

【監督】
ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ
【出演】
アーミル・カーン
カトリーナ・カイフ
アビシェーク・バッチャン
ウダイ・チョープラー

感想(2014年12月10日、フォーラム仙台にて鑑賞)

アメリカ・シカゴでサーカス団の跡取り息子として育った少年サーヒル。
サーカスでは新作公演が迫っていたが、経営に苦しむ父親は銀行からの融資を断られたことで破滅してしまう。
絶望の中で、サーヒルは銀行への復讐を誓うのだった。

時は流れ、成長したサーヒルはサーカス団を立ち上げていたが、裏では父親を破滅に追いやったあの銀行を狙って金庫破りを続けていた。
現場に残されたメッセージから犯人がインド系であることを知った警察は、インドから敏腕刑事ジャイとその相棒アリを呼び寄せる。
激しいチェイスの末、サーヒルの存在に迫るジャイだったが、サーヒルは巧妙なトリックによって逮捕を免れる…。



インド映画は数本しか見てないけど、ハズレに当たったことがまだありません。
もちろんこの「チェイス!」も大当たりの映画でした。
お近くで上映してたらとりあえず観に行って損はしません。

まず、宣伝では陸上・水上・空中でチェイスするみたいなことを言ってますが、正直それはこの映画の「掴み」でしかありません。
この映画の真の魅力は骨太なヒューマンドラマ。
よくあるアクション映画だと思ったら大間違いですよ!

いったいどんな人間ドラマが語られるのか…、それを書いてしまうと楽しさが半減してしまう作品でもあります。
意外な展開が前半の山場でありまして、そこからあらすじとはまったく違う物語を見せてくるんですよね。
あれ?私はいま何を観てるんだっけ?チェイス!だよね?これチェイス!だよね?えっなんでチェイス!がこんな展開になってるの?チェイス!すごくない!?

なので、宣伝があくまでアクション映画としてのアピールになってしまうのも仕方ないんですよね。
原題はエンジン音のことらしく、日本語なら「ブゥーン!」って感じでしょう。
それなら「チェイス!」という邦題も至極真っ当なネーミングです。
とにかく、某フィンチャー映画並みにネタバレ箝口令を敷きたくなる内容なんですよ(笑)

主演は「きっと、うまくいく」のアーミル・カーン。
演技派の俳優だと思いますが、今作では鍛え上げた肉体も披露しています。
顔はMr.ビーンをめちゃくちゃかっこよくした感じ(笑)すごいですよ、眉の釣り上がり方が…。

ライバルとなる刑事役には、アビシェーク・バッチャン。
バッチャンといっても男性です(笑)
どこかで聞き覚えのあるファミリーネームだなと思ったら、「スラムドッグ・ミリオネア」で子供たちが憧れていた大スター、アミターブ・バッチャンの息子なんですね。

ヒロイン役にはカトリーナ・カイフというインドと英国のハーフの女性が。
ダンスがめちゃくちゃうまかったです。でもインドのヒロインは何故みんな妖艶なのでしょうか?(笑)
ただ、他の作品と比べるとロマンス要素はちょっと少なめなので、彼女の印象はそんなになかったですかね…。
とにかく、アーミル・カーンの演技力に魅入ってしまいました。



思うに、長尺なインド映画は、長い分さまざまなエピソードがじっくりと描かれるため、「掴み」の部分はそれぞれ違っても最終的にはどれも「素晴らしいエンタメ作品」になってるんですよね(笑)
今作のようなアクションでも、SFでも、終わってみると一様に満足できるという…。
これって、インド映画特有のいわば「足し算の美学」とも言える手法ゆえじゃないかと思うんです。

映画では、普通「引き算」の方をやると思うんですが、引き算ってやりすぎると演出が記号化しちゃうと思うんです。
このセリフを言わせてフラグを立てたら素早く次のシーン…という感じに、話を進める上での最低限必要な言葉や演出だけで映画を構成してしまうと、話を語るだけの作品になってしまわないかと…。
個人的にノーラン映画はこの極端な例だと思っていて、「完璧な脚本」にムダが無さすぎて、逆に人間味を感じられなかったりするんですよ。

一方インド映画は、もう充分話はしたのに、まだくだらないやりとりを続けてたりする(笑)
話の本筋に直接関係ない会話もたっぷりじっくりやってしまう。
たぶんこれはサービス精神からだと思いますが、それゆえに主人公の人となりが分かりすぎるほどに分かって、自然と感情移入するし、作品自体に愛着も湧くんじゃないかと。

とにかく、この足し算の美学をやって許されるのは現在のところインド映画とピーター・ジャクソンだけですから、この二者の作品はこれからも追い続けていかないとな…と思いました。
(ピーター・ジャクソンのホビット3には多少文句がありますが、それはまた別のお話…)