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重力ピエロ
(2009年/日本)
感想 (2013年1月5日、TV録画にて鑑賞) 

伊坂幸太郎原作の小説を森淳一監督が実写化したミステリー映画。 

大学で遺伝子について学ぶ兄の泉水(いずみ)と、落書きを消すバイトをしている弟の春。 
ある日、二人は仙台の街を騒がしている連続放火事件と、街中に描かれたグラフィティアートの関連性に気付き、事件の謎解きに乗り出します。 
やがてそれは泉水に24年前から今へと繋がる家族の記憶を思い起こさせます。 

兄・泉水役に加瀬亮。弟・春役に岡田将生。 
二人の両親役で小日向文世と鈴木京香、春をストーキングする通称・夏子さん役に吉高由里子、そして渡部篤郎などが脇を固めます。 


これ、仙台を舞台にしていて、市内でロケが行われたご当地映画です。 
そのため宮城県では先行上映という形で公開が始まり、当時、友達と二人で観に行った憶えがあります。 

当時は面白いと思ったんですが、久しぶりに見てみると、ちょっとツッコミいれたくなってしまいましたね……。 


まず、これ言っちゃうとネタバレになってしまうんですけど、クライム・ムービーなんですよね。 
伊坂幸太郎の作品でよくある「なんか良い感じのする犯罪小説」が原作なんです。 

物語は、学業以外あまりパッとしない兄・泉水の視点で語られ、序盤は仲の良い兄弟と飄々とした父親の穏やかな日常が描かれます。 
そしていつの間にか主役側が犯罪に手を染めるような展開になっていくんですが、しかしラストでは再び穏やかな日常の雰囲気が戻ってきてしまうんですよね。 

これが、非常に違和感を感じる所で、「あらら?」と思っている間になんだかいい雰囲気のまま終わってしまう。 
雰囲気優先で美しく終わらせようとしたことが逆効果になってしまってるんじゃないでしょうか? 
過去の事件が生んだ憎しみや恨みを晴らそうとする気持ちは理解できるけど、それを達成した時には、今度は自分が罪を背負わなければならないはずで、この映画はその辺がすっぽり抜け落ちてる感じがしました。 
主人公たちは罪について罰についてどう考えていたんでしょうか? 

さらにサスペンスとしても、いまいち切迫したものがないんですよね。 
泉水が連続放火事件に興味を持ったことから物語が動き出し、終盤一気に加速していくわけですが、そもそも泉水は放火事件に興味を持たなくてもいいんですよ。(これ言ったらお終いだけどw) 

別に解かなくてもいい、警察に任せておけばいい謎を解こうとする兄と、それを最初から用意していた弟。 
罪を犯しても、「二人で遊んできたのか?」でなかったことに?そこに法とか倫理が入り込む余地はなく。
それがまかり通るなら警察も司法もいらないじゃんっていう、家族内完結映画です。 

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悲劇的な過去と、家族の絆、そして粋なセリフで演出されていますが、そのセリフや家族の絆にしたって、根拠となるようなものが見当たらないんですよね。 
「私たち、そのうち宙に浮かぶかもね」 
「俺たちは最強の家族だ」 
気の持ちようで毎日は楽しくなる……そういう意味に捉えましたが、そう思うに至った経緯は? 
なぜ、レイプ魔に孕まされた子を産もうとあんなにあっさり決断できたのか……?(天の声なんて認めないw) 
なぜ、小日向文世演じる父親はなんであんなに超然としているのか? 

結局、生まれながらの才能なんでしょうか?何があってもめげない、良い雰囲気の人たちが集まって、良い雰囲気の物語を紡いでいる感じ。 
だから、リアリティはなくて、なんとなくファンタジーな作品って気がします。 


ただ、徐々に謎が解けていく語り口は面白かったし、シュールでユーモラスな雰囲気は伊坂作品特有のものだと思います。 
落とし所だけ受け入れられたなら楽しめる映画ですね。