精霊の守り人

実写化ということで再読。
異世界ファンタジーだけど和風・東アジア風な所が面白い。
ニュンガ・ロ・イムとかナユグとか独特のネーミングもなんかワクワクする。

建国神話、先住民族に残る古い唄や夏至祭の秘密、王宮内の暗い真実なども下敷きとしてあって、まったくの架空の世界でありながらミステリーとしても読める。
ニュンガ・ロ・イム、ラルンガ、サアナン、ナージ、それらは著者が創り出した架空のものにすぎない。
だから最初からすべてうまく行くように仕組まれていたと考えれば確かにそうだけれど、物語の中で登場人物たちは息づいており、それがこのファンタジーの最大の魅力とも言えるかもしれない。

皇子チャグムが女用心棒バルサと旅するうちに少しずつ成長する。
その中で、自分の中にある精霊の卵による不安や恐れ、怒りが、仮の親とも言えるバルサへの反抗という形で現れる。
これはある意味ですべての親と子に通じる話かもしれないし、王道のテーマだと思う。

また、バルサと薬草師タンダの間の微妙な関係というのも、大人だからこそ楽しめる部分だと思う。
かたや戦いに生き、死線をくぐり抜けることに快感を覚えている女と、かたや平穏を絵に描いたような男。
タンダがバルサの傷を癒やすために傍に居る未来は想像できるけど、バルサがタンダのために傍に留まることは想像が難しい。
両想いではあるけれど、その一方的な関係性が、二人の未来を遠ざけているように感じた。



精霊の守り人
上橋菜穂子
新潮文庫