ハーモニー ミァハ トァン

ハーモニー
(2015年/日本)
【監督】
なかむらたかし
マイケル・アリアス
【キャスト】
沢城みゆき
上田麗奈
洲崎綾
榊原良子
大塚明夫
三木眞一郎
チョー
森田順平
渡辺明乃
森千晃

*感想

ノイタミナムービーProject-Itoh三部作の第二作目は、夭折のSF作家・伊藤計劃が死の前年に発表した長編第2作「ハーモニー」が原作。
アニメーション制作はスタジオ4℃。

かつて起きた世界規模の混沌「大災禍」から復興した世界は、その反動で極端な健康志向と社会の調和を重んじた超高度医療社会へと変容した。
しかし、個人は公共のリソースであるとする慈愛に満ちた「生府」社会では酒も煙草も嗜むことができず、そんな社会に息苦しさを覚えた霧慧トァンは逃げるように日本を離れ、上級螺旋監察官として戦場の平和維持活動の最前線に身を置いていた。

そんなある日、世界中で数千人が同時刻に自殺するという前代未聞の事件が起こる。
事件の背後に13年前に死んだはずの同級生・御冷ミァハの影を見出したトァン。
かつて優しすぎる世界を拒絶したミァハは、トァンを誘って自殺を試み、そしてミァハだけが成功した…はずだった。



序盤のチェイスシーンで勘違いしてしまうけど、本来はアクションはほとんど無い作品。
人の「意識」とは何か、なんてテーマが主人公トァンのモノローグと、彼女が出会う者たちとのダイアローグで解き明かされていく。
才女が真紅のロングコートを翻して大立ち回りをする映画ではない。そういうものを序盤のチェイスシーン以降にも求めてしまうけど。

三部作で既に公開された「屍者の帝国」に比べれば、原作に忠実と言えるだろう。
結末に微妙な差異はあれ、設定そのものから大きく改変した形跡はない。
ただし、やはり映画化するにあたって削ぎ落とされたものは多く、世界観の設定が原作未読では分かりづらいと思う。

例えば、「WatchMe」(ウォッチミー)は生府社会のすべての構成員にインストールされている体内監視システム。
身体の状態が常にサーバに送られ、そのデータをもとに薬を精製する装置「メディケア」を使って、健康な状態を維持できるようになっている。
いや、維持しなければならないように世の中ができている。

「生府」というコミュニティは、大虐殺の時代を経て成立した、個人がリソース(資源)とされる時代。
人はみな公共の財産であり、その身体を不摂生によって傷つけることが許されない空気が支配している。
自傷や自殺などはもってのほかであり、それゆえに御冷ミァハは自死することで「世界に不意打ちを与えたい」と宣言した。

その辺の世界観をもう少し分かりやすく描いてもいいのではないかと思った。
劇中ではトァンの独白が毎パートあるんだし、冒頭で生府(ヴァイガメント)の概要について語ったとしても違和感はなかったはずだ。
冒頭とラストにはある仕掛けが施されているのだが、世界設定を語ったとしてもその仕掛けを台無しにしたりはしなかったと思う。

人類がたどり着いた、史上最も命が尊重される社会。
しかし、けして居心地の良い場所ではない(少なくともトァンやミァハにとっては)ということはもっともっと語られるべきだった。
結局、そこの描写の不足が、ミァハの気持ち、トァンの行動の根拠を弱くしてしまった気がする。
例えば、原作にあったカフェインに対するセッション。あれはトァンがミァハのカリスマ性と関係なく生府社会を嫌悪して良いエピソードだと思うのだが、映画では使われることはなかった。

ハーモニー トァン

映像は最近いろんな所で見るようになったセルルックの3DCG。
個人的にはメリットもデメリットもある手法だと思っている。「屍者の帝国」のように、思わず見入ってしまう、ということはなかった。
拡現(オーグ)での会議風景などは劇伴や演出的に盛り上がりのシーンだと思うが、石膏像が喋っているようであまり好きになれなかった。

一部だけ盛大に血が飛び散るカットがあって、そこだけは「ああ、これが伊藤計劃だよな!」「ハーモニーってこういう話だったよ!」と思ってしまった(笑)

ちなみに三部作の最後のピース「虐殺器官」は、制作会社の倒産という危機を乗り越え、制作再開が決まった。2016年の公開を目指しているという。
この作品こそ、アクションでも楽しめる作品になるはずなので、期待して待とうと思う。