図書館危機 図書館戦争シリーズ③
有川浩
角川書店 角川文庫

*感想

図書館戦争シリーズ第3弾。
ヒロイン・郁の不器用な恋、第2ラウンドのゴングがいま鳴った!
今回も各話(各章)ごとにさらりと解説・感想を書いていきたいと思います。



第1話、痴漢捕獲作戦!怒りの小牧!鬼の柴崎!
図書館という大声を出しづらい空間での痴漢行為についての話。
小牧の幼馴染で恋人の毬江が被害に遭い、堂上班に柴崎を加えたメンツで囮捜査を展開することに。

怒りに燃え、冷静な口調ながらも冷酷な言葉を犯人に突き立てた小牧が意外だったし、柴崎もなんかすごく笑顔がコワイ(笑)
著者・有川浩が女性だからなのか、手段や被害者側の心情にとても詳細に触れられており、ただの犯罪では済まされない空気感が漂っていた。

第2話、手塚の昇任試験。
郁、柴崎、手塚がそれぞれ昇任試験に挑む。
意外にも手塚が「幼児への読み聞かせ」という実技試験で苦労することに。

郁はもちろん堂上や小牧にも弱みを見せたがらなかった手塚が、柴崎を頼ったことで二人の関係が少し接近する。
もともとのきっかけは前作「図書館内乱」にあるわけだが、少しそこから進展した感じ。
筆記試験はギリギリセーフの郁は、子供の扱いは上手く(もとい、子供と同レベルまで下がれる)、創意工夫の面で満点な出来だったのがなんだか人の良さが出てる気がする。

第3話、「違反語」ってなんなの?の巻。
記者・折口が人気俳優の身の上話をインタビューしたことをきっかけに、「違反語」を巡る表現者と出版社のバトルが描かれる。
不適切な表現と指摘されることを嫌ってどんどん自粛する範囲を広げていくことは、言葉狩りと変わらないのではないか?

これは著者自身が本を出すうえでよく経験することでもあるらしく、著者の思いがけっこうダイレクトに出た話だろう。
そもそも「図書館戦争」の世界観自体が、表現の自由を規制された世界で、それがどんなにおかしい世界かを訴えたシリーズとも言える。
最後は、折口の腐れ縁・玄田隊長のムチャを押し通す「迷」采配によって、なかなか面白いことになる。



第4話・第5話は、武蔵野の図書特殊部隊が、茨城の県展に出品されたある過激な作品を良化特務機関から守るために出張する話。
水戸の図書基地で起きていた歪み、その裏に隠されていた図書隊の危機、そして激しい戦闘、あの人の名誉の退場と、中盤の盛り上がりとして最高の内容になっている。

郁自身の話としては、初めての大規模戦闘、女子寮での孤独な戦い、堂上とのぎこちない関係の解消などなど、やはり面白い内容。
特に女子寮での出来事は、(また書いてしまうが)著者が女性だからか、とても容赦がないところがあるように思った。
前にツイッターで「女性専用車両は意外とマナーレベルが低い」みたいなのを見たんだが、女だけの空間ってけして「花園」ではないんだなあ、と思いました。(やんわり)



今回も読了後はとても良い気分になれた。
相変わらずまっすぐなヒロインや、どこまでも正しい男性陣(間違ってもそれを悔やんで謝ることができる人たち)の姿に感動しながら読み終えた。
私も彼らのように正しくありたいと素直に思う。

ある意味でこの本(このシリーズ)は、何が正しいことかを教えてくれる本でもある。
堂上の清廉な生き様、郁のまっすぐで素直な生き方を見ていると、普段自分がいかに局地的な価値観で動いているか思い知らされる。
「大人なんだから…」とか「会社の方針だから…」とか理由を付けて、自分を騙してないか。
郁や堂上は、正しくないと思うことに直面しても、自分の正しさを曲げずに精一杯悩み抜く。大人の事情だからと諦めて受け入れたりしないのだ。

この本は人としてどうあるべきかを教えてくれる。
そういう意味では、「聖書」と呼んでも過言ではないのかもしれない。