2015-08-08-19-56-26

乱歩奇譚 Game of Laplace
#5「芋虫」
#6「地獄風景」

*感想

サブタイトルの「Game of Laplace」ってどんな意味なのだろうとネットで調べてみた。
「Laplace」とは、どうやらフランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラス(1749-1827)のことを指しているらしい。
今回はこのラプラスにまつわる話から始めたいと思う。 

このラプラスは「決定論者」だった。
「決定論」というのは、これから起きるすべての現象はこれまで起きたことに起因しているから、ある時点での宇宙のすべての原子の運動状態が分かれば、これから起きるすべての現象が計算できるはずだという考え方。
つまりこれから起こることは(計算されてないだけで)すべて既に決定しているという、因果論の中でもけっこう極端な立場なのかもしれない。

ラプラスは著書の中でこう述べている。
「もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、
かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、
この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、
その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。」 (確率の解析的理論) 
ある瞬間におけるすべての物質の状態を知ることができる架空の「知性」。
この神のみぞ持ちうるような謎の「知性」が、やがて「ラプラスの悪魔」と呼ばれるようになった。
(つまり、そんな知性はどこにもありゃしねえだろ、悪魔みたいな不確かな存在だろ、ということか)

で、話を戻して「Game of Laplace=ラプラスのゲーム」である。
勝手な推測だが、これはラプラスの悪魔や因果的決定論のことを指しているのかもしれない。
ある結果から遡って原因を暴くというのは、まさに探偵の仕事である。
探偵・推理・ミステリーという言葉は「因果」と親和性が高い…、というより因果なしに語れないはずだ。

で、わざわざそんな言葉を副題に持ってきたということは、物語全体が因果によって縛られている可能性がある。
…というか、そうなった方が面白いと思うのだ。
カガミ警視の凶行と、それがもたらす変化。怪人二十面相とアケチ探偵の因縁。
それらがひとつのあらかじめ定められた結末へ向かって収束していくのなら、面白い。





*以下、ネタバレ含むので未見の方は注意!





第5話「芋虫」は、第4話「怪人二十面相」の回収といった感じ。
カガミ警視がなぜ怪人二十面相になってしまったのかその経緯が1話使って丁寧に語られる。

シスコン疑惑のあったカガミだったが、もろシスコンだった(笑)
両親は既におらず、服飾デザイナーを目指して勉強中の妹と二人暮らし。
妹に家事の一切を任せきりで、なんというか妹なのか幼妻なのか分からなかった。

いち警察官としてナカムラと同じ課に配属されたカガミは、精力的に捜査活動をする。
しかしある時、法の限界に気付いてしまう。
重大な犯罪で逮捕された者たちが、「心神喪失」を理由に刑を免れ何事もなかったかのように社会に出て行く…。
カガミは警官という立場の無力さを感じながら、それでも犯人検挙に邁進していく。

刑法第39条では次のように規定されている。
第39条
1. 心神喪失者の行為は、罰しない。
2. 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
平たく言えば精神を病んでいて認識能力が欠けている人間が犯した罪は罰しないということ。
映画「39 刑法第三十九条」はこの法律の問題点をテーマにした邦画なので、堤真一が好きな人はぜひ見てみてください。(暗く重苦しい映画だけどね…)

この法律を悪用し、罪を免れる残酷な殺人者たち。
法で裁けぬ者たちを自らの手で裁く、その思いから生まれたのが「デスノート」の救世主キラだ。
キラこと夜神月は、名前を書かれた者は死ぬという死神のノートを使って、法で裁けない悪人たちを抹殺していく。

デスノートの話になってしまったが、こういう悪を法によらずに独断でジャッジする系のダークヒーローは多い。(夜神とカガミって似てるし…)
オリジナルの「怪人二十面相」、それに続く模倣犯の二十面相も、社会の暗部が生み出した必然なのかもしれない。

最後、カガミが闇に堕ちる原因となった殺人犯スナガをカガミがまだ殺していないことにナカムラは気づく。
最愛の妹を無惨に殺した一番憎い相手に、なぜ未だに報復していないのか?
カガミは「いま殺しています」と答える。
この現在進行形で語られた言葉が、カガミの憎悪の深さと人間の狂気の極致を表していた。

2015-08-08-19-53-14

第6話「地獄風景」は、タイトルと裏腹に明るく楽しいギャグ回だった。
猫・爆弾・赤ん坊・テロ集団が一堂に会する。

第5話では聞き手に徹していておとなしかったコバヤシ少年がここぞとばかりに毒舌を発揮。
アケチの話を聞き流して猫を飼う前提で話を進めていく姿を見て、やっぱりこの子サイコパスだと思った。
コバヤシ少年は、アケチの気持ちなんかどうでもいいのだ(笑)

なんとも情けない理由で事務所に転がりこんできた影男もナイスすぎた。
身体に爆弾を抱え込まされているのにけっこう余裕だったし(笑)
残り数分になるまで本気で考えてあげない探偵事務所の面々も酷い(笑)
妄想がついに現実になったと電話の向こうではしゃぐ黒蜥蜴もやはりイカれすぎてネジが飛んでいる。

さすがにこのボケとツッコミの応酬はアニメ独自のものだろうから、余計に原案となった「地獄風景」がどんな話なのか気になってしまう。
今回だけに限らず全体的に大きく脚色されているのだろうし、元の乱歩の世界観はやはり原作を読まないと分からない。
このアニメで取り上げられた作品だけでも、いつか読んでみようとは思っている。

2015-08-08-19-55-09

第6話のラストでは、収監されたカガミにナカムラが会いにやってくる。
カガミの起こした事件以来、怪人二十面相を名乗る事件は増えている、俺は何が正しいのか分からなくなりそうだと弱音を吐く先輩ナカムラ刑事。

このゲームにラプラスの悪魔が関わっているのならば、このカガミの行動は社会に何らかの「結果」をもたらすはずで、同時にナカムラの言動も何かの「原因」になっている。
それらの結果をすべて計算する悪魔は現実には存在しないが、もしこれから起こることを何者かが予想し先手を打っていたとしたら面白いな、と思う。