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サカサマのパテマ (2013年、日本)

【監督】
吉浦康裕
【声の出演】
藤井ゆきよ
岡本信彦
大畑伸太郎
ふくまつ進紗
土師孝也
安元洋貴
加藤将之
内田真礼
【アニメーション制作】
スタジオ・リッカ
パープルカウスタジオジャパン

あらすじ

アイガ君主国では、「かつて多くの罪びとが空に落ちた」と伝えられ、空を見上げることは忌み嫌われていた。しかし、学校内で孤立気味の少年エイジは、時折、学生寮を抜けだしては一人、空を見上げていた。そんなエイジの前に、ある夜、地底世界からやってきた<サカサマの少女>パテマが現れる。そのままでは空に落ちてしまうパテマを保護したエイジ。しかしその頃、<サカサマ人>を忌み嫌うアイガの君主イザムラの魔の手が迫っていた……。

感想 (2014年1月15日、チネ・ラヴィータにて鑑賞)

「イヴの時間」の吉浦康裕監督・脚本・原作の新作アニメ「サカサマのパテマ」観ました!
今年もまだ始まったばかりですが、今年のベストに選びたい映画です(笑)
少なくともアニメ映画のジャンルでこれを超える作品を今年は見られないと思ってます。
別にそれでもいいと思えるくらい素晴らしい内容でした♪



大まかに言ってしまうとボーイ・ミーツ・ガールもの。
平凡な少年が異邦人の少女と出会い、心を通い合わせていく……というよくあるパターンです。
しかし、そんなベタな展開が骨組みにあっても、見せ方が良いですね。

地上人の少年と地底人の少女の出会い。
空から女の子が降ってくるアニメは名作と言われますが、このアニメの場合は地面から女の子が……!
しかもサカサマのまま……これがこのアニメのオリジナリティとなります。

二つの重力が存在する世界、という設定は知ってて観たんですが、このアニメ……よく考えるとどうやら「重力」じゃないぞ?となります。
つまり、重力ならばその影響の及ぶ場所にあるものはすべて同一の方向へ引っ張られるはずですが、エイジとパテマは、同じ場所にあっても真逆の方向へ引っ張られています。

このため、地面の裏側から地上に出てきたパテマはずっとサカサマのまま。
そしてエイジが掴んでいないとパテマは空へと「落ちて」いきます。
パテマにとっては空に重力があるわけですが、しかし地上人のエイジにとっては違う……。
このことは人間だけに言えるのではなく、パテマの住む地底世界の物も空に引っ張られる性質を持っているんですね。

なので、これはもう重力ではないな、と。
二つの重力によって引き裂かれる主人公たち……ではなく、そもそも上下の概念がまったく異なる性質を持った者たちの物語なんですね。
外部の重力によって立場が異なるのではなく、内面の性質によって価値観が異なるということでは、と。

そんな、価値観のまったく異なる両者が、どんな風に相互理解を深めていくか……の物語でもあります。
観客はまず、パテマにとって空の青さがどんなに恐ろしいことかを理解することから始まります。
すごく画期的ですよ、これは。

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映像的な面ではとにかくこの上下逆さまの女の子というのが効いていて、「サカサマ・トリップ・スペクタクル」というコピーのとおり。
画面の上下が頻繁に変わるアニメで、パテマ視点の地底世界にエイジ視点で入り込む所とかけっこう鳥肌だったりします。

さらに、前述のように、パテマにはこの状況どう見えてるんだろうとか、エイジにはどうだろうとか、そんなことを考え出すともう脳内がすごいです(笑)
まさにサカサマ・トリップ・スペクタクル!

お互いに異質なものでしかない二人が、ふと同じ視点でお互いを見るシーンがありますが、そういうのさり気なく入れてくるとかもうこの監督すごいですね!
そもそもアイディアがもうなんかすごいし!

結末にもものすごい真実が用意されていて、正直ああいう結末じゃなかったらここまで絶賛はしてないと思います。
未だに解釈に苦しむんですけどね、2つの解釈を思いついてしまって。
ネタバレになるので書けないのがツラいですが……。



苦言を呈する部分があるとすれば、悪役であるアイガ国の独裁者イザムラが、悪役としていまいちだったかなーと。
なんか、独裁者なのにけっこう現場に出張ってくる人でね……。
風貌も、君主ではなく君主補佐って感じでね……。
目を見開いてニヤリとする演出がどうでもいいシーンで出てきたりね……。
最終的に小物的に終わるのはまあ良しとして、でも悪役を描くの慣れてないのかなーと思いました。

でもパテマちゃんが可愛かったので全然オッケーですね!
私もパテマちゃんのおなかにギューッてしたいよぉ(*´Д`*)ハァハァ
声優の藤井ゆきよさんも、新人とのことですが、幼さの残る活発な少女の声が良かったですね♪

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この映画のことは、昨年7月に「イヴの時間」を借りて見た時にいろいろ調べて知り、その後冬になってから仙台でも上映されることを知ったんですが、これほどのクオリティのアニメ映画がややもすれば見逃してしまいそうな規模でやってるんですよね。
アンテナ張っとかないとな~と改めて思いました。

この吉浦康裕監督にも大注目ですが、「おおかみこどもの雨と雪」などの細田守や、「言の葉の庭」などの新海誠にも大注目ですよね。
この3者はハートフルで面白いものを作ってきますよ。

逆に最近ジブリアニメの評価が相対的に下がり始めて……(笑)
まあ、昨年観たジブリが「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」ですからムリもないような気もするけど。
とにかく、私の中ではもうジブリの時代は終わりつつあって、代わりに若い世代のアニメ監督たちが台頭してきた感じ。
これからのアニメ映画界に期待大です。



気になる人は、なんとニコニコ動画で映画の一部が公開されてますので見てみてください。