The Indifference Engine
ザ・インディファレンス・エンジン
伊藤計劃
ハヤカワ文庫JA 早川書房(2012)

【収録作品】
女王陛下の所有物
The Indifference Engine
Heavenscape
フォックスの葬送
セカイ、蛮族、ぼく。
A.T.D:Automatic Death ■ EPISODE:0 NO DISTANCE, BUT INTERFACE (伊藤計劃+新間大悟)
From the Nothing, With Love.
解説 (伊藤計劃&円城塔)
屍者の帝国

*感想

伊藤計劃の短編を集めた一冊です。
出版を目的に書かれてないものも多いようで、007シリーズの新解釈や、日本産ゲームの世界観を踏襲した作品などがあります。
数ページの漫画も2編。



「女王陛下の所有物」と「From the~」は、007シリーズの主人公ジェームズ・ボンドが、実は記憶を改ざんされたコピーだったというSF的なアプローチをしていて、007シリーズ好きな人にちょっと読んでほしいですね。

映画ではボンド役が代替わりしたり、何十年もボンドが現役だったりしますよね。
それは映画なので、フィクションなので、突っ込んだらダメなとこなんですが、この本で書かれてた「実はボンドは、オリジナルのコピーなのだ」という解釈はそういうの引っくるめてすべて納得させてしまう唯一の方法ですね。
ダニエル・クレイグのボンドも、初代ボンドの記憶を上書きされたコピーなのかもしれない((((;゚Д゚)))))))



「The Indifference Engine」は、これも脳みそを弄られる話。
長編「虐殺器官」で、作戦に就く兵士たちが任務前に脳みそを弄り、痛みを感じる機能をカットするというのがありましたが、それから派生させた物語です。

民族紛争が続く第3世界の少年兵たちから、民族を識別する脳の機能をカットし、紛争を根絶させようというプロジェクト。
それに巻き込まれた1人の少年。人の顔を見ても、それがどの民族かいしきできなくなってしまいます。
更生施設で知り合った友人が実は憎むべき敵の部族だったり、道行く人が仲間の部族かどうかもわからず困り果てる少年。
民族という概念を少年の頭から取り払うことで、逆に民族対立がもたらす不幸を描いており、とても読み応えがありました。



「Heavenscape」は、「虐殺器官」の元となった短編。
日本産のとあるゲームの世界観を取り入れている話ですが、その要素は「虐殺器官」になる際に除かれました。

「フォックスの葬送」もゲーム「メタルギア・ソリッド」シリーズを愛する伊藤計劃が、そのスピンオフとして書いた短編。
申し訳ないですが、MGS2しかやったことない私には何の話かまったく分からず(笑)



最後に収録された「屍者の帝国」は、フランケンシュタインの話を膨らましたような感じで、死者の肉体を科学的に活性化させ、意思のない使用人として使役させている世界が舞台です。
残念ながら作者の死によって絶筆となってしまったのですが、彼の盟友である円城塔氏によって書き継がれ出版されました。
「虐殺器官」や「ハーモニー」とは別の世界が舞台なのかな?いつか読んでみたいと思います。



中にはユーモラスな話もありましたが、それさえもグロテスクさがしっかりとあって、さすが伊藤計劃、短編集も隅から隅まで血の臭いがしますね…。