All You Need Is Kill

桜坂洋
集英社スーパーダッシュ文庫(2004)

*感想

現在大ヒット公開中の映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」の原作ライトノベル。
映画の宣伝では「日本原作」なんて原作者を軽んじた(?)コピーが流れてますが、原作者は桜坂洋、さくらざかひろしをよろしくお願いします!



統合防疫軍のジャケット兵としてトーキョーのはるか南方に浮かぶコトイウシ島へ出撃した初年兵キリヤ・ケイジは、異星人が地球に送り込んできた<ギタイ>の攻撃によって戦死(KIA)してしまう。
しかし次の瞬間、ケイジは出撃前日のベッドの上で目を覚ました。

幾度も出撃と戦死を繰り返す不思議なループ現象に巻き込まれたケイジは、「自分の記憶だけはリセットされない」ことに気付き、生き延びるために試行錯誤を繰り返しながら戦闘のスキルを磨いていく。
そしてループが158回を数えた時、ケイジは戦場で一人の女性と再会する……。



原作小説、コミック、映画と楽しみましたが、一番推しなのはやはり原作です。
一番感情移入ができたのがこれですね。

ゲームのように何度もリセットを繰り返しながら、最良の結果を目指してリトライするというアイディアもさることながら、時のループが生み出す主人公とヒロインの関係性が秀逸なんですよ。

具体的には、ヒロイン視点で書かれた第3章のラストのセリフが思わず笑っちゃうほど良いんです。
ループに巻き込まれるということは、自分の体験を誰とも共有できないということで、絶望的に孤独な状態を生み出します。
しかし、自分の置かれた状況を理解してくれる人間が現れるわけですね。突然、異国の雑兵が「ジャパンのレストランでは…」とか訳わからないことを言ってくるんですが、それが合言葉であり、ヒロインの涙スイッチを押してしまう…。

時間移動によって同じ体験を共有できず心が通じ合わないという展開は、この作品が初めてではないはずです。
未来からやってきた男が、自分と出会う前の恋人と別の形で出会うけれども、男だけが愛情を持っていて、女の方は恋愛感情持ってない…みたいなもどかしい設定。
また、婚約者が事故で記憶喪失に陥り、自分のことを忘れてしまった…という展開も似たようなものですね。

オーキルでは、159回目のループで主人公と親しくなったヒロインが160回目になるとまったく元に戻ってるわけです。
そこで、主人公はまた合言葉を言う。ヒロインの涙スイッチが入る…。
自分だけが彼女と過ごした思い出を憶えていて、彼女は毎日自分のことを忘れる…。(厳密には忘れるとは違うけど)
ちょっと寒気がしてきますよね。

そのことを踏まえた上で描かれる第4章は切なく、同時に「戻らない時間」という点で「青春」の匂いも漂っていました。
「切なさ」でいったら、コミカライズも実写化映画も原作には敵わないでしょう。

今、コミックの方も映画の方も話題ですが、少しでも気になったなら、まずこの原作を読んでみることをオススメします。
コミックを読む上での助けになるし、映画とは違ったテーマが語られています。
小畑健イラストによる新装版も出てますしね。