77d989eb.jpg


リアル ~完全なる首長竜の日~ (2013年、日本)

【ジャンル】
ミステリー/ラブストーリー/スリラー
【監督】
黒沢清
【出演】
佐藤健 (藤田浩市)
綾瀬はるか (和淳美)
オダギリジョー (担当編集者)
染谷将太 (アシスタント)
堀部圭亮 (脳神経外科医)
松重豊 (淳美の父)
小泉今日子 (浩市の母)
中谷美紀 (精神科医)

あらすじ

人気漫画家の和淳美が自殺を図り昏睡状態へと陥ってから1年。幼馴染でもある恋人の浩市は、最新医療である<センシング>技術を使って眠り続ける淳美の意識の中へと入り込む。意識の中で漫画を描くことに取り憑かれていた淳美。浩市は淳美を漫画家としてのプレッシャーから解放しようと何度もセンシングを繰り返すうちに、現実の中で幻を見るようになっていくが……。

感想 (2013年6月11日、チネ・ラヴィータにて鑑賞)

「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した乾緑郎の小説「完全なる首長竜の日」を、佐藤健と綾瀬はるかのW主演で実写化したミステリー映画。
監督は世界からも注目されてる黒沢清。90年代から00年代にかけて多くの作品を撮っていますが、この人の監督作品は実は今までひとつも見たことありませんでした。僕はホラーを敬遠しがちなので、そのせいかも。

主演は実写映画「るろうに剣心」の佐藤健。
そして主演作多数の人気女優・綾瀬はるか。今作では、前半の怖い綾瀬はるかが見所ですかね。

共演には、漫画雑誌の編集者を演じたオダギリジョー、漫画家である主人公のアシスタントを演じた染谷将太、精神科医と脳外科医役で中谷美紀と堀部圭亮、主人公たちの親の役で小泉今日子と松重豊など、よく見る面々。
特筆すべきは染谷将太の髪型と(個人的に)なんかムカつく態度が素晴らしかったですね。(←褒めてますw)


<センシング>とは、この物語に出てくる架空の精神医療のこと。
患者と相性の良い者の脳波をコントロールし意識下でコミュニケーションを取ることができる装置です。
物語は、この技術を使って、佐藤健演じる浩市が綾瀬はるか演じる淳美を昏睡状態から目覚めさせようとする所から始まります。

仮想でありながら、リアルに再現された二人が暮らすマンションの一室。
淳美は、自分が自殺未遂によって1年も眠り続けていることなど知らず、今も締め切りに追われながら漫画を描き続けていました。リアルな残酷描写が話題となっていた殺人鬼「ルーミィ」の原稿を……。
スランプに悩む淳美は、「幼い頃に描いた首長竜の絵を見つけてきてほしい」と浩市に訴えます。
浩市は幼い頃に淳美から貰ったはずの首長竜の絵を、現実世界で探そうとします。

しかし、センシング治療を続けるうちに浩市の脳と淳美の意識が混線するようになり、浩市は淳美が描くような残酷な光景を現実でも目にするようになっていきます……。

ca24a02c.jpg


正直言って、前半すっごい怖くて……。
冒頭から人を不安にさせる張り詰めた雰囲気で満ちている映画でした。
綾瀬はるか演じる女流漫画家が描く猟奇的な死体が、意識の中なので実体化するんですよね。
溺死体(?)が突然出てきて予想外デース!(笑)

サイコサスペンスを期待していたんですけど、前半はストレートにホラータッチでしたね。
つかみとしてはちょっとインパクトありすぎる気も。ミステリーだけで充分に謎ですからね。
鑑賞予定記事の方で、夢や意識の中に入り込む共通点から「インセプション」「エターナル・サンシャイン」の名を挙げましたが、今となってはまるで見当違いでした。(お恥ずかしい……)

人によっては、「まさかこんな怖い映画とは思わなかった……!」って前半で席を立つ人もいそうですが、後半はそんなに怖くなく、ラブストーリーという触れ込みも嘘ではないので、最後まで観ることをオススメします。


で、肝心の謎解きというか、どんでん返しですが……。
中盤で、180度の転換点があります。
それは素直に驚きでしたし、いやむしろ、そんな転換をしちゃってこの物語はどこに行くの?ちゃんと終わるの?っていうホラーとは別の意味でドキドキがあって、最後の最後まで真剣に観れたと思います。

ただ、終わってからよくよく考えると、ちょっとこの映画は破綻気味じゃないかと……。
いや僕なんかが大それたことは言えないんですが……。

何が言いたいかというと、中盤のどんでん返しによって、前半の展開がほとんど無意味になってしまう……?
冒頭からの流れがそこでいったん断ち切られてしまって、前半のエピソードが後半に効いてこないというか……。
転換点から、仕切り直しで新たな物語が始まってしまう、と言ってもいいかも。

それでも観てる間は、これからどうなるの?と楽しく観れます。
この転換点の意味するものって?そしてどんな結末に持っていくつもりなの?と。
しかし、中谷美紀演じる精神科医がテキトーな仮説を提示するだけで、どんでん返しが普通に受け入れられてしまいます。ホッとした主人公の「なぁ~んだ……」でまとめられてしまいます。

結局そんな風に小さくまとめられてしまった前半部分。
観客を驚かすという意味ではこのどんでん返しは最高のスパイスになっているんですけど、主人公たちが結末を紡ぎだすのに必要な前半だったかというとちょっと「???」です。

さらに、前半のホラー描写の数々と後半のシンプルなサスペンスがまったくイメージ違うというのもちょっとちぐはぐな感じ。
終盤はCGで描かれた首長竜とのバトルが始まっちゃうので、どういう気分で観るのが正しいのか……。

05509ef7.jpg


そう、ハリウッドのVFXスタジオと同じソフトを使用したというCGですが、首長竜はけっこうリアルにできてましたね。
あと、フィロソフィカル・ゾンビの不気味さとかも面白かったです。金メッキ松重豊とか。あれはまさしく作中に出てくる「ルーミィ」のような漫画に登場する、イっちゃった目の人間の具現化ですよね。

一部で、車を運転するシーンで車外の風景が稚拙すぎるとの批判がありますが、あれはその後のどんでん返しを考えれば、作品を読み解くひとつのヒントだと解釈できるでしょう。
なので、映像については独特で、良かったと思います。
(ただ、センシングの機械の安っぽさだけどうにかしてほしかった……)


全体的な評価としては、面白かったです。ただ、観る前に期待しすぎてしまったというか……。
個人的には、前半のストレートなホラー描写から、後半は心理スリラーへとシフトしてほしかったです。
ミスチルの主題歌「REM」のイメージもあるんですけど、もっと狂ったものが観られるのだと勝手に思ってしまいました。

なので、ちょっと消化不良な感じで映画館を出ました。
まあ、あのベタベタなラストには満足できないですよ……(笑)