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エリジウム (2013年、アメリカ)

【監督】
ニール・ブロムカンプ
【出演】
マット・デイモン (マックス・ダ・コスタ)
ジョディ・フォスター (デラコート)
シャールト・コプリー (クルーガー)
ヴァグネル・モーラ (スパイダー)
アリシー・ブラガ (フレイ)
ディエゴ・ルナ (フリオ)
ウィリアム・フィクナー (ジョン・カーライル)
ファラン・タヒール (パテル)

あらすじ

2154年。限られた富裕層の者たちはスペースコロニー<エリジウム>に移住し、老いや病から解放された終わりのない幸福を享受していた。しかし、その一方で人口過密となった地球は荒廃しきり、犯罪と貧困がはびこっていた。マックス・ダ・コスタもかつては犯罪に手を染めて留置所送りになっていたが、今ではアーマダイン社の工場で働いていた。だが、組立ラインの事故によって余命わずかとなった彼は、エリジウムにある医療ポッドのもとへなんとしてでも行かなければならない。マックスは、エリジウムへの不法移民を斡旋する闇商人スパイダーに会いに行くが……。

感想 (2013年9月23日、MOVIX利府にて鑑賞)

予告編ではすごい期待させられたんですけど……。
監督は「第9地区」のニール・ブロムカンプ。
「第9地区」好きな自分にとっては、期待を裏切られた感じです。


主演は<ボーン・シリーズ>などで有名なマット・デイモン。
今回は、貧困層の若者マックスとして登場します。生きるために様々な犯罪に手を染めましたが、今ではアーマダイン社の労働者としてロボットの組み立てラインで働いています。(皮肉にも、出勤途中でその警備ロボットに酷い目に合わされてしまうのですが……)

マックスを迎え撃つエリジウムの防衛庁長官デラコート役に、ジョディ・フォスター。
今回、「パニック・ルーム」や「フライト・プラン」などでの「戦うママ」のイメージが強い彼女に期待していたんですが、まったく拍子抜けでしたね。
ぶっちゃけあれだけの役柄なら、ジョディ・フォスターでなくても充分な気がしないでもないです。
というか、ジョディ・フォスターを配役したことで余計な期待を膨らませることに成功しているんですね(笑)

マックスとバトルする残忍な傭兵クルーガー役には、「第9地区」で主演だったシャールト・コプリー。
前作の公務員っぽさ、ひ弱なイメージは完全に払拭した、見事な悪役っぷりでした。
ヒゲ生やしただけでこんなにも違うのか……(笑)

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ただ、シャールト・コプリーのキレッキレの悪役は面白かったですが、物語全体を見た時にはマット・デイモンVSコプリーという構図は失敗だったような気がするんですよね。

この物語のテーマって、貧困層=弱者と富裕層=強者の対比の上に成り立ってると思うんですよ。
いろんなものがこの対比を軸に描かれていて、それが現実世界を少なからず再現しているって所に、このド派手なSFアクション映画の社会性があるし、その手法は「第9地区」のブロムカンプならではなんですよね。
それを事前情報や予告編で感じ取れたから、これはただのSFアクション映画ではないぞって、とても期待していたわけです。

しかし、弱者と強者の対比という形でこの映画を見た時に、主役のマット・デイモンは果たして弱者なのか?っていう率直な疑問が湧いてくるんですよね。
孤児院で育ち、窃盗を働くなどして糧を得てきたという設定の主人公マックスを演じるのは、筋骨たくましいハリウッド・スター<マッチョ・デイモン>。
ここに、矛盾をまず感じますね。「貧しくないじゃん」って思ってしまう。

さらにスキンヘッドにタトゥーと、弱者というよりも不良っぽさの方が前面に出ています。
まあそれは別にいいとして、髪の毛はエクソ・スーツ手術の際に剃り上げる演出でも良かったんじゃないかな……これも別にいいことか……。
マックスが銃器の扱いに慣れているのも不思議です。彼は日銭を稼ぐための盗みをしてきたのであって、ライフルや、ましてエリジウムの最新プラズマ銃は不慣れなはずなんですよね。(銃火器の取り扱いもエクソ・スーツがサポートしてくれる、という解釈はちょっと無理があるんじゃないでしょうかね?)

生身の体に外科手術を施してエクソ・スーツを装着し、もう元に戻れなくなる代わりに力を手にするっていう展開が醍醐味でもあるんですが、果たしてエクソ・スーツは本当に意味があったのか?マックスはエクソ・スーツによって強くなったのか?そこの部分の説得力が弱い。
どうも、映画を見ているとエクソ・スーツのおかげではなく、マット・デイモン自身の強さのように見えてしまうんですよこれ(笑)
だから、エクソ・スーツっていうめっちゃパンクなSFガジェットがただの見た目のかっこよさだけで終始してしまってるんですね。ガジェットの魅力を引き出せていない、むしろマット・デイモンが着ることで魅力を潰してるかもしれません。

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まるで主演がマット・デイモンじゃなかったらよかった風な文章になってますが、僕が言いたいのはまさにそこなんですよね。
この映画は、追い詰められた弱者が力を得て、強者の作り出した楽園へと乗り込む物語。
だとしたら、主演には「弱者」が似合う俳優、強そうなイメージの無い「普通の人」を演じられる俳優が望ましいはず……。

では、その「普通の人」っぽい俳優とは誰か……?
それこそ、監督の前作で「普通の公務員」を演じたシャールト・コプリーが適任だと僕は思いますね!
今作で悪役として花を咲かせたコプリーですが、やはり今回も彼が主役を演じるべきだったんですよブロムカンプ監督!

仮に彼が主演ならば……、犯罪を犯しながら生きてきたという設定はなくして、貧しい生活だったが運良くアーマダイン社の組立ラインの仕事にありつけたことにして、フレイに対してはなかなか思いを打ち明けられない勇気の無さを描き、しかし状況が変わりなんとしてもエリジウムに行かなければならないコプリーは、ビクビクオドオドしながら闇商人スパイダーのアジトへと向かう……。
そしてエクソ・スーツによって強化されたコプリーは、大活躍するが、最後には憧れのフレイのため、そして人類のために……。

……という展開の方がラストで泣けると思うんですよね。(正しいラストはまったく泣けませんでした)
この映画は、主役と悪役の俳優が入れ替わった方が面白味が増すと思いますよ!
ちなみに悪役に回ったマット・デイモンには、冷酷な白人至上主義者という設定でも付け足しておけば、それなりにヤバい悪役になるでしょう。

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まあ、こんな妄想を繰り広げても何の意味もないんですけどね……。
もう既に「エリジウム」は完成しているんですから……。

ただ、やはり結果的にこの映画、よくある大作SFアクションの域を出ていないというのは残念でした。
自分の中では「オブリビオン」や「アフター・アース」と同列ですね。お金かかってるし、大スターも出ているけれど、突き抜けたものがない。
ミリタリー系の描写で監督の個性が出ていますが、それにしたって「第9地区」と比べたら普通の映像です。

思えば、「第9地区」は低予算で制作された映画でした。
低予算ゆえにドキュメンタリー手法で間も持たせるというアイディアがあったし、粗削りな脚本を勢いで描けていました。

しかし、1億ドルを超える予算をつぎ込み、莫大な宣伝費をかけたブロックバスター映画は、なんとしても興行収入で回収しないとならない。
そのためなんでしょうか、より多くの人が支持してくれるような、良く言えば最大公約数的な、悪く言えば当り障りのない平凡な映画になってしまってます。
率直な意見として、「第9地区」はまぐれ当たりだったか、ブロムカンプ監督のマネをした別の人が監督したような出来です。

もしかしたら、SF映画にはあまり予算をつぎ込まない方が、結果として良いものが撮れるのかもしれません。
お金をかければかけるほど、SF<アクションという不等式が目立つようになるし、大衆向けの安っぽいドラマになってしまうような気がします。
SFってジャンルは本来、一部のファンによって育てられてきたジャンルで、もともと宇宙人とか時間移動とか、万人向けではないんですよね。

ですが、今年は特に思うのですが、豪華キャストを配した万人向けのSF大作が多いですね。
「LOOPER」「クラウド アトラス」「オブリビオン」「アフター・アース」「ワールド・ウォーZ」「マン・オブ・スティール」「エリジウム」……。
こんなに見ても、一番面白かったSF大作は万人向けとは言い難かった「パシフィック・リム」だったりします……。



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