aa65cb8b.jpg

 宇宙戦争

原題:THE WAR OF THE WORLDS (1898)
著者:H・G・ウェルズ
訳者:中村融
創元SF文庫

あらすじ

夜空に妖しく輝く火星。ある夜、その表面で謎の白光が観測された。6年後……、英国ウォキングを始めとした地域で人々は夜空を切り裂く流星を目撃する。その流星は、大地に巨大な穴を穿ち、その中には金属でできた謎の円筒があった。やがて、その円筒の中から這い出してきた未知の生物は人類に攻撃を始め……。想像を絶する火星人の地球侵略が始まったのだった!

感想

SF史に燦然と輝く、H・G・ウェルズの傑作長編小説。
人類よりも高度な文明を持つ火星人によってイギリスが侵略されます。
この小説をもとに、舞台をアメリカに移した脚本をラジオドラマとして放送したところ、それを本当に起こったことだと勘違いする人が大勢出て、アメリカで大騒動になったという話はあまりにも有名ですね。

最近では、2005年にトム・クルーズ主演によって映画化されたものが記憶に新しいですね。
僕は映画の方を先に見て、あらすじは知っていながらも「タイトルとちがうw」と思ったんですが、原題の意味を知ると「宇宙戦争」という邦題にかなりムリがあることが分かります。

「the War of the Worlds」
このタイトルを見て「世界戦争」の方がしっくりくると思う方もいるでしょうが、実はそれも正解ではない。
「Worlds」が複数形であるところが大事なところで、ウェルズは「世界と世界の戦争」という意味を持たせてるみたいです。二つの世界同士のせめぎ合いを描いてるんですね。

この小説での「世界」とは、一つ目は言うまでもなく人間の世界。人間の暮らし、あるいは人間の知性。
人類とはまったく違う環境で進化したまったく違う尺度の生物である火星人との戦いは、地球と火星、どちらの世界が優れた世界かを決める戦いでもあります。明らかに人類よりも高度な兵器を持った生物が人間の土地を徹底的に破壊するということは、人類の文明を否定しているようなもんです。
そして負けた側の世界は勝者の世界のように塗り替えられてしまいます。

もう一つの「世界同士の戦い」は、価値観の変革に伴う人類内部での戦いです。
つまり、それまでの文明的な価値観に支配された秩序ある世界が、火星人の破壊行為で非文明状態になったとき、それまでの価値観は淘汰され新しい基準が生まれ出てくるということもウェルズは書いています。
例えば、それまでは富める者が社会を動かしていましたが、火星人の恐怖に怯える世界では、経済力よりも腕力や判断力、精神力が求められてきます。その世界では神に祈る者はいません。

「the War of the Worlds」にはこういう二つの意味が込められているんですね。
となると、邦題の「宇宙戦争」がますます間違ってるような……(笑)


内容については、文字ビッシリで時間がかかりました。
学者である「私」が火星人侵略事件の後に大衆向けに書いたレポートという形をとっています。
なので、主人公が火星人侵略を生き延びたという結末が最初から分かるわけなんですが、それでもやはりピンチのシーンでは彼の身を案じました。

地名がとにかくたくさん出てくるので、かなり難しいですね。難しいというか、イギリスの土地勘がまったくないので、サッパリわからない(笑)
途中から、地名を頭に入れようとするのは諦めました…。


今回、原作を初めて読んでみて、2005年の「宇宙戦争」は割と原作に忠実に作られてたんだな~と思いました。
映画のワンシーンがそのままピッタリ当てはまるような文章もところどころでありました。
一番忠実だったのは、森や丘の上に見え隠れするトライポッドの不気味さ、ですかね?その点は、小説も映画も共通していました。