アイ・アム・レジェンド
原題:I AM LEGEND (1954)著者:リチャード・マシスン
訳者:尾之上浩司
ハヤカワ文庫NV
あらすじ
突如蔓延した疫病によって人類は絶滅し、世界はその様相を一変させた。ただ一人生き残ったロバート・ネヴィルは日が暮れる前に自宅に帰ってくると、キッチンで夕食の準備をする。料理を皿に盛っていると、いつもと同じベン・コートマンの怒声が聞こえてきた。「出てこい、ネヴィル!」しかし、ネヴィルはけして出て行かない。出て行けば今では吸血鬼と化したコートマンたちに殺されてしまう。地球最後の男は自宅に籠城し、毎夜耳を塞ぎながら、絶望的な戦いの日々を送っていた……。感想
リチャード・マシスンの「アイ・アム・レジェンド」を読みました。50年以上前の作品です。当時は「地球最後の男」という題で日本に紹介され、2007年には3度目の映画化もされました。表紙は、映画で主演したウィル・スミスですね♪
映画化に合わせて改訳された本みたいです。非常に読みやすかったです。
リチャード・マシスンはアメリカの小説家・脚本家で、彼の作品は他にも「運命のボタン」とか「リアル・スティール」として映画化されています。
ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロもマシスンの影響を受けているとか。
原作は映画とは大きく違い、たった一人生き残った主人公が吸血鬼たちに毎夜悩まされるという出だし。
最初から自宅を知られているし、吸血鬼の姿も人間とあまり変わらないみたいです。
吸血鬼なので、ニンニクや十字架には寄ってこず、心臓に杭を打ち込むと身体が一気に崩壊する。でも、吸血鬼は鏡が嫌いという伝承はデタラメだったり。
毎日、町を歩き回りながら吸血鬼の観察を続けていた主人公ネヴィルは、やがて、全人類を冒した吸血鬼病のメカニズムを知ろうと独自の研究を始めます。
全編に渡ってミステリー要素が散りばめられています。
当たり前だけど、主人公の一人称で物語は進みます。
とにかく、夜になると外壁を補強した自宅に籠り、医学書などを読みふけるネヴィル。
しかし、酒が入ると「こんなことをして何になる?」と、すぐにヤケになりグラスを壁に投げつける。
最後まで理性を持った人間として生きたいという思いと、いっそ吸血鬼どもの仲間になった方が楽かもしれないという思いのせめぎ合いが毎晩のように繰り返されます。
本当にグラスを何個割ったのやら……。
終盤は、すっかり吸血鬼狩りにも慣れたネヴィルの前に現れた謎の女がもたらす、最後のミステリー。
この女は生き残りの人間なのか、それとも吸血鬼どものスパイなのか?
そして、衝撃の展開と結末。
はっきりいって、映画では描かれなかったこちらのラストの方が好みです。
「アイ・アム・レジェンド」の意味は、映画では「伝説の英雄」になっているんですが、もともとの原作では畏怖の対象としての「伝説」なんですよね。例えるなら、「伝説の人喰いザメ」みたいな扱い(笑)
普通の人間だったはずのネヴィルがいつのまにか唯一無二の存在となり、それは同時に、異質だったはずの怪物たちが今では世界を支配する多数派であり標準になったことを示しています。
さらに、人類に起こった吸血鬼化、吸血鬼に起こったさらなる進化といったもの……。
読み終えてみると、一人の男の視点から「時代の変わる瞬間」を見たような、壮大な物語でした。
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