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おおかみこどもの雨と雪
(2012年、日本)

【監督】
細田守
【キャスト】
宮﨑あおい
大沢たかお
黒木華
西井幸人
大野百花
加部亜門
平岡拓真
菅原文太
 
*あらすじ

大学生の"花"はある日、教科書も持たずに講義の内容をひたすらメモし続ける物静かな男と出会う。二人は惹かれ合い、つきあい始めるが、実は男は"おおかみおとこ"という人と狼の混血の末裔だった。やがて子どもを授かった二人は、姉に"雪"、弟に"雨"という名前を付け、都会の片隅で正体を隠しながら幸せに暮らしていた。しかしある日、父が消えてしまう。二人の"おおかみこども"と一緒に取り残された花は、豊かな自然の残る田舎に子どもたちと移住することを決意するが……。
 
*感想(2012年7月26日、チネ・ラヴィータにて鑑賞)

「時をかける少女」「サマーウォーズ」でアニメファン以外も虜にした細田守監督の最新作。
今作も、脚本・奥寺佐渡子、キャラクターデザイン・貞本義行といういつもの強力トリオ。
 
僕は過去に「時かけ」で恋煩いにかかり、「サマウォ」で人生投げたくなった経験があります(爆)
主人公にしっかり感情移入した上で、もう手に入らないものを見せつけられたんですよね……。
あまりに作品がすばらしかった反動で、その後の数日間が憂鬱でした。むか~し書いた「サマウォ」の記事なんて酷いもんです。
 
今作「おおかみこどもの雨と雪」は、結論から言うと、そういった鬱状態にはなりませんでした。
でも、「時かけ」より泣きました。涙が頬を伝って流れ落ちました。「映画でこんなに泣けるんだ」と再認識。
この結果は、「素晴らしい映画」であることの何よりの証明になるかと。
 
しかも、僕は独身アラサー男ですからね!?(笑)
この映画がターゲットにしてる層とは若干外れますよね。
やっぱり、母子家庭を描いた点で「母親」「これから母親になる人」がターゲットなんだと思います。
そしてお母さんたちがお子さん連れて観られるような映画になってます。
なのに、独身アラサー男までも泣かせてしまう、というのは、単に僕が涙もろくなってるわけではないはず……。



さて、物語についてですが、序盤は"花"と"彼"の出会いややりとりが描かれます。
時間を追って物語が進むので、見やすかったです。過去の回想といったありがちなシーンは今回なかったかな……。
 
あ、ってか、"彼"ですよ「彼」!!
年齢不詳、本名不明の彼が"おおかみおとこ"なんですよ!
運転免許証の名前も、文字が潰れてて読めなかった……!
花も彼の名前を一度も呼ばないし、いったい彼の名前は……?

それはともかく、序盤はちょっと子供向けでない描写もチラホラ。
花とおおかみおとこの初夜がムードたっぷりに描かれたり、生まれてきたおおかみこどもたちが病気になるとゲロゲロ吐いたり……。夜泣きが止まんないとか、児童相談所がやってきたりとか、お子さんには「?」なシーンも多かったですね。
ただし、そこらへんをヘタに美化していたら、お母さんたちの支持は得られないでしょうからね。
 
 
都会に居心地の悪さを感じるようになった花は、こどもたちを連れて人里離れた山奥へと引越します。
ここでも、すべてを美化しようとはしないんですよね。
スローライフという都会人のエゴに対してのカウンターパンチも、少しだけ触れられていましたかね?
 
農業なめんな!みたいなオーラを全身から醸し出してる「韮崎のおじいちゃん」が登場。
声は菅原文太さんがやってるんですが、韮崎のじいさんの「土からやり直すんだ」という台詞に震えました!
そして、韮崎のじいさんがどう見ても菅原文太をアニメ化したようにしか見えないのがツボ!(笑)
キャスト決まってからのキャラデザなんでしょうか?
 
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まあとにかく、ここからはお子さんも楽しめるはず!
もうとにかくはしゃぎ回る雪がうるさくて可愛くて仕方ない♪幼年期の雪の声をあてた子役の大野百花ちゃんは今回一番の注目ですね。
「うまくやるって!」「なめられてんだよ!」「おみやげ3つ、タコ3つ♪」
雪というやんちゃな女の子に完全にハマってましたね。
 
そのセリフや声と合わせて、監督の映像の見せ方も良かったな~♪
例えば、雪が花に駄々をこねるシーンは、何回も同じ構図・同じ動作で描くことで、それが日常の微笑ましい一コマであることを表していたし、雪が見せた蛇や動物の骨に同級生たちが「キャァ~!」って逃げてくシーンはベタだけど面白かったです。
雪と雨が低学年から高学年へと成長していく過程を、本人たちにクローズアップせずに教室を描くことで表現していたのも面白いと思いました。
 
映像面では、やはり背景の自然も見所でしたね。
手描きの荘厳な山脈の手前で揺れるCGの花畑とか、アナログとデジタルが上手く融合していたと思います。
 
 
 
雪と雨が高学年に成長してからはちょっとシリアスな展開。
人間の女の子と同じように思春期に入り、女性への階段を上り始めた雪。
一方では、野山に触れ合うことで、おおかみおとことしての生き方を模索し始めた雨。
ある出来事で、姉弟の進む道がまったく別物であることが衝撃的に示されます。
 
雪の場合、一見物分かりのいい子に見えるんだけど、実はおおかみこどもという事が他の女の子よりも深い悩みをもたらしています。
そこに現れた転校生の草平。はっきり言ってベタベタの人物設定なんですが、その既視感がジワジワくる。
次に何言うか分かってるベテランコンビの漫才を聞いてるようなもので、特に目新しい筋書きではないんですけど、それでもドキドキするし、一方で安心して楽しめる。
韮崎のじいさんもそうです。いろんな媒体で幾度と無く描かれた典型的な頑固ジジイなんだけど、それが魅力にもなっています。
 
ついでに言ってしまえば、わんわん泣きだしてしまった雪の姿は「サマウォ」の夏希を彷彿とさせるし……。
いたるところで、「こういうの見たなぁ♪」ってのがあるんですが、それがニヤリとさせてくれるので観ていて心地いい。
 
 
 
一方、いつの間にか何を考えてるか分からない子になってしまった弟の雨。
彼は学校に行かずに山に出かけ、山の「先生」から野生の生き方や自然についての生きた知識を学びます。
やがて、あることを決意する雨。
その決意は花に止められてしまいますが、その時の雨の服装や雰囲気がいつの間にか父親そっくりだったのは鳥肌ものでした。
物語ではそこまで言及されてないんだけど、やはり、あれは子に父親の姿を重ねることで雨の成長を表現したかったんじゃないかと。
 
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そして、物語はクライマックスへ。
正直、予告編からは想像もつかないような結末が待ってました。
それも確かに愛だよね、母親の姿だよね、と妙に腑に落ちました。
 
何より、花のクライマックスでのセリフがもうすごい破壊力でして……。
ネタバレになるのでここでは明かしませんが、こどもたちが生まれてからずっと毎日振り回されて、あっという間に大きくなればなったでまだ振り回されて……、こどもたちの将来について母親の立場から考える猶予も与えられないまま、でもそれでも現実は待ってくれない……、そんな状況でのあのセリフに涙腺崩壊しました。
 
一見、投げやりにも見えるんですけどね(笑)
でも、こどもを完璧な大人に育て上げるのが母親の役目ではないですし。
 
まあ、とにかく観客の頭の中もうまく整理がつかない展開の中で、花のあの言葉は実にストレートで余計なものが何もなくて良かったです。
 
何度も言いますが、独身アラサー男でも泣ける映画です♪
この細田守監督はどんな題材でも人を巻き込んで感動させる技術を持っているのかも…?