3ea69cbb.jpg


<ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク2>
90億の神の御名

著者:アーサー・C・クラーク
編者:中村融
訳者:浅倉久志、他
初版:2009年
ハヤカワ文庫SF

あらすじ

数字の代わりに文字の並べ替えを自動でする計算機の注文をしたのは、チベットのラマ僧だった。その目的は、神の名前をすべて記すこと。9文字のすべての組み合わせをリストに載せ終わった時、世界の終わりが来るというが……。

収録作品

前哨
月面の休暇
おお地球よ……
時間がいっぱい
90億の神の御名
木星第五衛星
夜明けの出会い
海底牧場
密航者

月に賭ける
究極の旋律
天の向こう側
遙かなる地球の歌
幽霊宇宙服
ベツレヘムの星(エッセイ)

感想

アーサー・C・クラーク大先生の短編小説を日本で独自に編んだ作品集です。
短編集として他に「太陽系最後の日」と「メデューサとの出会い」があり、この「90億の神の御名」は2番目の短編集になります。
クラークの30代ころの作品を集めているそうです。


有名なSF作品「2001年宇宙の旅」の原型短編として知られる「前哨」は、月面で人工の結晶ピラミッドを見つける話。このピラミッドが後に「モノリス」になるわけですね。
ほんの十数ページの掌編ですが、とにかく詳細に書き込まれた情報は現実に起こった出来事のようです。

クラークの物語の魅力ってその「詳細さ」にあると思いますね。
「月面の休暇」という中編も、年頃の娘が月面の研究施設で働く父を訪ね、そこで大人への階段を少し上がる…といったものなんですが、クラークの文章はまるで見て来たかのように書いてあるので、その研究施設の風景を読者も思い浮かべることが出来るんですよね。
そして、扱うテーマは未来に胸膨らます少女という微妙で繊細なもの。
読んでると不思議と高揚感が湧いてくるのもクラークの魅力です。


他に長編作品の原型となった短編には、「海底牧場」などもあります。
海の中で鯨を放牧・捕獲して食糧問題を解決した未来の物語。
クジラを羊に見たて、イルカを牧羊犬に見たて、サメを狼に見たてて、イルカを引き連れクジラを管理する人間の視点から描いてます。

やはりこういうアイディアのユニークさもクラークの魅力の一つですね。
ラマ僧がコンピューターの力を借りて神の名前を記そうとする「90億の神の御名」や、頭から離れないメロディーをもし究極のメロディーを作ることができたらどうなるかを描いた「究極の旋律」などなど。

そして、「木星第五衛星」で語られる落下のトリックなんかは、実際に木星まで行って試してきたんじゃないかというぐらい……。
深い知識に裏付けされた面白い短編がたくさんあります。


いくつかの掌編から成る連作「月に賭ける」や「天の向こう側」も読み応えあり。
この短編集では月面や宇宙を舞台にした物語が多めでしたね。