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入浴シーンにヴェネチアっ子がブーイングした映画。
 
 
 
『記憶の棘』(以下ネタバレあり)
2010年7月24日、自宅にて鑑賞。
 
 
 
【あらすじ】
アナの愛する夫ショーンはジョギングの途中で突然に病死する。
10年後、アナは新たな夫を持つことを決意し婚約するが、そんな彼女の前に見知らぬ10歳の少年が現れる。
「僕はショーンだ」と告げる少年の言葉にアナは困惑する。
そしてアナは、亡き夫と自分しか知らない事実を話すこの少年を、夫の生まれ変わりではないかと考え始める。
 
 
 
【感想】
「一度見ただけでは分からない映画」というジャンルの映画だ(笑)
ある意味ではリバース・ムービーとも呼べるだろう。
(原題は『Birth』だけれど、内容は明らかに『ReBirth』……)
 
ニコール・キッドマン演じる未亡人が、死んだ夫の生まれ変わりを自称する少年を、
最初は嘘だと決めつけながらも、徐々に愛していくという話。
しかし、真実が観客に明かされた時、そこには黒い『現実』があって、ちょっと哀しい終わり方をする。
 
……と、思っていたら、実はそうではなくて、やっぱりファンタジーらしい。(どっちだよ……)
で、ちょっと哀しい終わり方をする。(←これは間違いない)
 
「見る人によって解釈が異なる映画」というカテゴリの映画だ(笑)
だが、解釈は異なってもイメージはあまり変わらないかも。
 
 
 
結局は、『生まれ変わり』という話を信じるか信じないかで解釈が変わってくる。
言い方を変えれば、この作品をサスペンスと見るかファンタジーと見るか……。
 
冒頭で死ぬ直前のショーンが声だけの出演でこう語っている。
「もし、妻が死んで、翌日、窓辺に一羽の鳥がやってきて『ショーン、私はアナよ』と言ったら、
僕はその鳥を妻と思って一緒に暮らすでしょう。
しかし、僕は科学者ですから、『生まれ変わり』というのは信じていません……」
 
矛盾しているように聞こえるが、妙に納得できるセリフだ。
つまり、社会的にはそんな超常現象は起こることを認められないが、
もし自分が当事者だったときにそれを否定できるかどうかは、別の問題なのだ。
 
 
 
物語には、一つの『現実的』な誰もが認められるような答えが示されている。これで、大方の問題は片付く。
しかし、アン・ヘッシュ演じるクララがその答えに深く関与した時点で、一つの疑問が沸き起こる。
「本当にアナとショーンは愛し合っていたのか?」「それはアナの一方的な『思い込み』ではなかったか?」
 
婚約者のジョセフに対する謝罪で見せた、アナの、当初、自分を擁護し現実を直視しようとしない姿勢や、
その直後、ジョセフにすがるように嘆願したシーンは、アナの精神が追い詰められていることを想像させるし、
ラストシーンで見せるアナの茫然自失とした姿は、彼女の精神が常に不安定な状態にあることの示唆では?
 
つまりは、「アナは、夫が自分を愛していないことに薄々気付いていたが、表面上は良妻を演じ、夫が自分を愛していると自分に思い込ませ続けていた。そこへ、夫の急死。極度のストレスの中でアナは、自分の結婚生活が素晴らしいものだったと記憶を改竄し、やがて本当にそう信じるようになっていった。
10年後に現れたショーンを名乗る少年は、『ショーンと愛し合っていた』と信じ込みたいアナの深層意識にとっては格好の相手だった。しかし、婚約者の存在、年齢差、そしてそもそも『生まれ変わり』なんて無いという理性が、アナを苦しめる。だが、やがてそういったものが崩れ去っていく、アナとショーンの行動によって……。そうなった時初めてアナは、少年への愛を見せ始める。
しかし、クララによって少年は嘘を見抜かれ、アナに事実を打ち明けざるを得なくなる。少年の嘘から解放されたアナだが、それでも彼女の心は癒えることは無かった。なぜなら、アナの改竄された記憶はそのままであったし、『生まれ変わり』という都合の良い解答を忘れることができなかったからだ……」
 
これが、最も『現実的』な解釈の一つだろうか。
なんだか、とてもやりきれない……(笑)
 
 
しかし、もう一つの解釈ではもっとやりきれないかもしれない。
「『前世』と『来世』があり、『生まれ変わり』はある(少なくとも映画の中では……)」という考え方だ。
 
ほとんどすべて上の解釈と同じだが、「ショーン少年の前世は本当にショーンだった」とする解釈である。
クララの隠した手紙を読むことで前世の記憶を断片的に取り戻した少年。
そんな設定でも全然成り立つストーリーで、どうやらそちらが監督の意図したものらしい。
 
 
 
なかなかに難解な映画だけど、『ドニー・ダーコ』よりは解釈しやすいというか、標識があって分かりやすいかな。
間の長いカットやアップも、クラシカルな音楽と相まって良かったし。
禁断の愛という側面もあって、ちょっと危うさを感じるところもある。そういうところは結構好きだ。(←不謹慎)
ただ、絶対にハッピーエンドではないし、いろいろ謎を残す終わり方なので、万人受けはしないだろうね。
 
何が一番やりきれないって、クララがあの秘密を一生隠していくことかもしれない。
 
 
一言:真実はいつも女が隠し持っている。
 
★★★☆☆
 
『記憶の棘』
原題:Birth
監督:ジョナサン・グレイザー
出演:ニコール・キッドマン、キャメロン・ブライト、ダニー・ヒューストン
配給:東芝エンタテインメント
2004年、アメリカ