ベクシル 2077日本鎖国



■STORY
バイオテクノロジーとロボット産業の発展により、世界市場を独占した日本。しかしその危険性が指摘されると、国連はこれらの技術を規制・制限しようとした。これに対し日本は反発し、国連を脱退。2067年、日本は“ハイテク鎖国”をスタートする。
物理面でも情報面でも完全に秘密のベールに包まれた日本。しかし市場は家電から兵器にいたるまで日本のメーカー“大和重綱”が席捲していた。
2077年、アメリカの特殊部隊“SWORD”は、とあるタレコミから大和の幹部“サイトウ”を拘束すべく現場に出動する。サイトウを追い詰めるも逃げられてしまい、残ったのはサイトウが自ら切り落とした右足1本。その機械の足には、合法・非合法を問わず、日本以外の国では実現不可能な技術の粋が詰まっていた。
日本への警戒心をますます強めたSWORDは、東京への極秘潜入作戦を実行に移す。そしてSWORDの女性隊員“ベクシル”は潜入した日本で、想像を絶する光景を目にする。



ベクシル。
公開当時は気になりつつも見れなかった作品です。

サントラはすでに買っていて、Paul OakenfoldやM.I.A.、Dead Can Danceといった異色なアーティストを知るきっかけにもなりました。
このうち、M.I.A.は、映画「スラムドッグ$ミリオネア」でも楽曲を提供していたこともあり、彼女のアルバムを輸入版DXで買っちゃいました。


そもそもはブンブンサテライツ目的・・・というより、「APPLESEED」のサントラでこの手の映画の方向性が分かっていたので、ぶっちゃけ「APPLESEED」サントラの続編と思って買っていましたね。
ちなみにAPPLESEEDもサントラが先で映画はまだ見てないw

そういえば、曽利文彦監督のヒット作「ピンポン」もサントラが先で、後からレンタルで借りたんだったw
その時は、スーパーカーや石野卓球、砂原良徳の参加に期待したわけだけど・・・。

曽利監督の音楽の趣味、結構俺と重なる部分があるのかな?
というより、曽利監督が映画に使用したことで俺の趣味も広がったというほうが正しいか。



話がずれまくってますが、映画自体は、「う~ん」という内容。
一緒に見てた、うちの親父いわく、「(同じCGなら)シュレックのほうが面白い」・・・。


アイディア・設定に関しては申し分なしというか、驚嘆の連続なんだが、それについての説明が不足している感じ。
説明あったのかもしれないけどw

■鎖国中の10年で、日本は一部を除き、山も町も無いまっ平らな“荒野”になってしまっているが、それは何故か?
■ジャグの構造・仕組みについて。生物なのか、意識はあるのか、など。
■キサラギが大和のトップにいる理由。もともとそうなのか、下克上か。

ケレン味ばかりを追求して、分かりやすさが吹っ飛んでいってしまった感じ。
もうちょっと各キャラクターが会話をして状況を説明してくれてもよかったのに・・・。


序盤、SWORDがある屋敷を襲撃する、このシーンは面白かった。
パワードスーツを着た人間。卵の形から変形する無人兵器。それを統率する巨大ロボット。

そのあと、都市部でのベクシルとレオンの生活、BASEMENT JAXXの甘い未来的バラードが流れる。
この辺までの演出は悪くない。

レオンとジャックが担当した過去の事件の回想、これもスピーディーで面白い。

しかし、SWORDが東京に潜入したあたりから、わけがわからなくなってくる。


つぶれ掛けた家で目覚めるカジュアルな格好のベクシル。
戦争直後の雑踏を再現したかのような、昭和ノスタルジックな東京。

ハイテクで美しい流線型のボディはなく、懐かしさと夕焼けの中で蠢く割と硬質な顔の人々。

そこだけ見たら「ベクシル」ではない。



さらに城壁の上から見た荒野と、そこをのた打ち回る“ジャグ”。
ジャグはこの作品で唯一ファンタジーな存在だ。

他の物事は科学的解明ができそうなのに、ジャグだけは正体不明のモンスターとなっている。



時間が経つほどに、「なんか違うよな」という感じがしてくる。

高速で移動していたバギーから投げ出されたマリア。
しかし、その顔には擦り傷一つ付いていない。

ヘリの爆発に巻き込まれたベクシル。
しかし、やはり彼女の顔にはススの一つもついていないw

過去のある男レオンが半分寝ていたせいで、この映画はベクシルとマリアのCG美女合戦になってしまった。



悪役の存在があまりにも矮小だ。

電波を拡散する技術を使って、衛星写真でも日本列島を映し出すことはできない。
本土の周りはすべて防壁があり、日本の船でなければ入出国ができない。

ここまでの徹底的な情報統制・物理的鎖国を敷いている政権とは、いったいどんな軍事政権なのだろうと思っていたら、
結局は一人の科学者キサラギの好奇心と野望を満たすための“実験場”でしかなかった・・・。
「こんなヤツのために」と言われちゃってる黒幕。
ラストは国外逃亡を図るも失敗・・・、ってどこまでも情けないヤツw

せめて軍事政権が悪役であったなら、“我々の将来に対する警鐘”と捉えることもできただろうが、
一人のマッドサイエンティストがどうやって権力を手にしたかもよくわからず、
どんなメッセージを受け取ればよいのか分からない。


ラスト、ベクシルの語りで、“例え滅んでも、次の世代に何か残すことが使命なんじゃないか”的なメッセージがあったが、
それは物語の終盤で城壁を開放し、自分たちがジャグの犠牲になることで、大和もろとも死のうと考えた一般人たちのことを言っている。
あるいは、キサラギと無理心中をしたマリアのことか。

しかし、「マリアーーッ!!」は酷すぎだw

そのセリフは絶対にダメだ。表現者として。話を低俗なものに貶めている。
“人が死ねば感動”ではないのだ。



ストーリーは二流三流の出来だが、声優陣もその低い評価に一役買っていた。
エンドロールで黒木メイサ・谷原章介の名が下から湧いて出てきたとき、
「だからつまんねえんだよ」と素直な意見が頭に浮かんだ。

そもそも女優業やタレント業の傍らで“ながら”で出来ることでもないし、初挑戦・初心者の人にうまく出来るはずも無く、
しかし、そういったマイナス要素が、「より現実の人間に近づけたかった」という一言ですべてなかったことになってしまうのは、何でなんだろう?
本業の声優は人間じゃないのか!?

音楽は良い。だが、セリフの音量が小さすぎて聞き取りづらい。
字幕が欲しいと思ってしまった。


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しかし、この映画の“意義”みたいなものは充分にあったんじゃないかと思う。

3Dライブアニメという手法が「APPLESEED」からどれほどの進化を遂げたか、世界のクリエイターの注目を集めていたことは確かだし、
その期待通りの近未来の都市・ロボットを描くだけでなく、スラムの雑踏のような、より生物的な、アナログなものを描くことにも挑戦している。
日本人の技術力を見せ付けた点で、すごい作品である。


だが、「ファイナルファンタジー」などのリアルCG作品と同様の課題を残してしまったことも事実か。
それは、“ストーリーがつまらない”ということである。

前述の通り、設定自体は目を見張るものがあったが、設定だけでは面白いストーリーにはならないようだ。

ゲームの中で時々挿入されるムービーの方がよっぽど感情移入できるという罠。


音楽クリップやゲームCGでは輝けても、大衆向けの映画としてはディズニー映画に圧倒的に劣るリアルCG業界。

いったいなに欠けているのか。

一度、「フォレスト・ガンプ」などのヒューマンドラマをフルリアルCGでリメイクしてみたらどうだろう?w